「兵士の物語」 シェロー&バレンボイム

 書庫に「朗読」を追加した。
 仕事柄気になる録音が幾つかある。
 なかでも信じられない表現力を発揮している作品を初回の記事にしたい。
 ストラヴィンスキー「兵士の物語」でダニエル・バレンボイムが指揮、朗読は尊敬するパトリス・シェローである。
 以前こういう‘動画があると‘文章のみで記したのですが、あの頃はブログに対して文字だけの拘りがあったため些か説得力に欠けていたように感じる。
 今は意識が変わり使えるものは使う考えで、版権?勿論どこかでひっかかっていますが、あくまで個人的な楽しみであり現実はどんなものなのか理解していない。
 シェローはバイロイト音楽祭1976年ブーレーズ指揮「ニーベルングの指輪」の演出でワグナーファンに衝撃を与え、今でも最も優れた「リング」の映像として世界に配信されている。
 他のオペラ演出を一部紹介するならアルバン・ベルクの「ルル」完全版初演、オッフェンバックホフマン物語」、ヤナーチェク死の家の記録」、モーツァルト「コシファントゥッテ」他、ワグナー「トリスタンとイゾルデ」はスカラ座で、先日動画をアップしたマイヤーが最後のシーンで血まみれになり「愛の死」を歌っているあれ。
 これらはDVDで観ることができるが、オペラは彼の仕事の氷山の一角にすぎない。
 若き時代から本職は芝居であり、かつてはパリ近郊のアマンディエ劇場で数多くの作品を手掛けていた。
 同時に俳優の教育を手掛け、アングラート、ヴァンサン・ペレーズパスカル・グレゴリー等多くの役者を育て上げた。
 昨年はルーブル美術館内で芝居を演出し動画サイトで観ることができる。
 私も今年、芝居デュラス「苦悩」を観た。凄い舞台だった。感想はブログで紹介してあります。
 映画監督としての仕事、「蘭の肉体」シャーロット・ランプリング主演。
 分裂質の女が出会った男達の目玉を刳りぬき放浪する信じられない作品。
 「ロームブレッセ」邦題は「傷ついた男」これはアングラートがまだ10代で、東京映画祭の特別企画上演で所謂ノーカット版を観たのだけれど、ゲイの話で男のヌードしか出てこない。
 この時に私はシェローにサインしてもらい数分話ができた。
 「君が私の作品を観たいならパリに来なければならない。役者の養成をしている。待っているよ。」と女性のような優しい視線で握手された。
 「なにか質問はないかい。」と言われ
 「あなたのモーツァルトが観たい。」と言葉にしたら、その後本当に演出したのだからクラクラした。
 考えるだけ野暮ですが、あの時にフランスに行く環境が自分にあれば、役者になったか?浮浪者になったか?ゲイになったか?もしかしたら死んでいるかもしれない。
 誤解されたら困るので言葉にしたい。「私は女性が好きだ。」
 駄目だな、シェローの作品に影響されているので文章の終わりが見えない。
 以下簡潔に纏めたい。 
 「愛する者よ列車に乗れ」「王妃マルゴ」「インティマシー」「ソン・フレール」どれも素晴らしい映画。
 そういえばカンヌ映画祭の審査委員長したこともあった。
 俳優としては「アデュー・ボナパルト」 アンジェイ・ワイダ監督「ダントン」では処刑される新聞記者役、他にも多数。
 この表現に憑りつかれた男が朗読している。
 しかも悪魔・兵士・語り部の3役を独りで語り分けている。
 フランス版の落語家みたいなもので衝撃的である。
 夏にサイトウキネン松本で同作品の上演があって数人の役者が朗読の舞台、この形が普通だと思いますがチケットは買わなかった。
 どんなに努力しても辿り着けない存在を発見した時、人間はどうなるのか私は知っている。
 答えは「絶望」である。