中華ランチと珈琲

 いつもの珈琲焙煎士から最近恒例のケニア豆200グラム、それから今回はトラジャ200グラムを購入。
 トラジャは焙煎したばかりだそうで数日寝かせる方が良いかなと思いつつ、飲みたいのでデミタスのように濃いめに淹れてみたらスモーキーな香りがやってきた。
 昼に外出し遅めのランチは小町の中華定食。
 サイドメニュー名物という焼売が気になり追加オーダー。
 焼売は川端康成さんや大佛次郎さんが好んで土産にしていたそうで、今回初めて注文したのですが神奈川では有名な高座豚を使用、それでも肉の主張より幾つかの香りが先にやってくるけれど複数の調味料みたいで脳が混乱し、どうでもいいとガッツリ食べた。
 「美味い!」
 会計して横の棚を見たら、昔の従業員さんらしいユニフォーム姿の数名が夏目雅子さんと撮影した記念写真が飾ってあることに気がついた。
 健康そうに明るく輝いて見える。
 伊集院静さんとの新婚生活は鎌倉で短い期間。
 結婚以前は作家の住む逗子に通っていたと本で読んでいて、この写真は直感だけれど入籍前のように感じられた。
 理由なんぞ説明しようもないけれど、感覚的にドメスティックと無縁の笑顔だから。
 
 光の具合から初夏と判断する。
 恐らく彼女は午前中に仕事があり、東京から直通の横須賀線に乗り鎌倉にやってきた。
 此処で作家と待ち合わせをしていた。
 伊集院さんは約束の時間に遅れる人ではない。
 つまり夏目雅子さんが早く到着した。
 それもかなり早く。
 いずれ時空は収縮し2人は食事を始めた。
 伊集院さんが手酌で瓶ビールを飲む。
 前菜の盛り合わせ、酢豚、五目焼きそばの3品。
 「シェアして食べよう。」
 お店の給仕さんは気を利かせ合計6枚の取皿を用意した。
 今日より30分くらい遅い14時頃、従業員は交代で賄いの時間。
 「まだ食べていていいのか・・」作家は支配人に確認する。
 「勿論大丈夫です。」と支配人は答える。
 2本目のビール。
 写真の笑顔は口を閉じそれでも目は笑ったまま両肘テーブルに乗せ手のひらは頬。
 
 私はそんなふうに感じた。
 そのあとが今日の失敗だったのだけれど、以前から気になっていた喫茶店に移動、看板にある水出し珈琲。 
 「不味い!」
 それでも一度は失敗しておけば、今後利用することもないので良かったと考えるしかない。
 そのまま帰宅し、最初に珈琲が飲みたい欲求だからどうしようもない。
 時間を掛けてケニア珈琲を淹れた。
 
 「実は私たちも焼売を後から注文したのよ。」
 ふと、夏目さんがそう言っているような気がした。