東フィル定期演奏会 ブザンソンで優勝した垣内悠希。
指揮 垣内悠希 ピアノ ソフィー・パチーニ
ベートーヴェン 「エグモント」序曲
3階センター、一番後ろの席にて鑑賞。
日曜日はだいたい仕事が入るので、私には珍しいマチネ。
気持ちにゆとりがあれば「ダ・ビンチ」の展覧会もと思っていましたが、他の情報を受け入れられるキャパもないので、軽くランチを取りそのままホールに入りました。
しかしオーチャードは本当に久しぶりで、普段はサントリーばかりだから10年振りくらいかもしれません。
前回はクラシックではなく、ミルバだったかウテ・レンパーを聴いたような微かな記憶がある。
指揮の垣内さんは、昨年のブザンソン国際指揮者コンクールの覇者で期待していました。
「エグモント」が鳴った瞬間、情熱的で気分爽快。好ましい。「素晴らしいんじゃない。」
サントリーホールで安価な席の場合はP席だから音の良い悪いは別にしてマエストロの表情が解るのですが、今回はステージから一番離れた3階のてっぺんで、どのような顔で指揮をしているのか皆目見当もつかない。隣のオジサンは一生懸命オペラグラスでステージを見つめていた。
タクト捌きに無駄が多いような気もしましたが、若さはかけがえのない武器なのだから今はそのまま進んで下さい。
いちいち細かく指摘し批判めいた文章を書く人がいたとしたら勇み足。絶対にそういう人出てくると思う。
キルギス人曰く「馬鹿か、自分でやってみろ。」
エンディング近く思い切りとんでもない外した音は某金管楽器。全ては想定内の出来事である。
正面からオーケストラを聴くのが最高なのは、最近はカートリッジ買ったり夜中にスピーカー作ったりと地下室のテロリストみたいな生活をしていたので、どんなに機械に拘ってもコンサートホールには敵わないなと当たり前の感想。
それでも無意識のうちに学習していたのは、ステージから離れた席での特にベートーヴェンはモノラルのように鳴るのだなということで、全体的に遠くにいる音の塊を聴いているのですから、右の耳と左の耳とで同じような情報を獲得しているのだ。いずれにしても演奏会場は身体に良いオーラが溢れている。
それで最も期待していたシューマンの協奏曲ですが・・・世間はどう思うか分からないけれど、全く感動無しの困った演奏だった。
パチーニという若き美人ピアニストは、キャッチコピーが「アルゲリッチが絶賛」なんてあるけれど、正確には「若い時の私の演奏を見ているみたい。」と女帝が言葉にしたらしいから、それが絶賛なのか微妙ですが、勢いのあるアプローチと高い技術はアルゲリッチの影響があるような気がしなくはない。
出だしから、とにかく急ぎ足と申しますか、100メートル競技みたいに全力で走っている演奏で、常に思考が先にある雰囲気は清々しいのですが、潔さというより、ある意味潤いが感じられないような印象。
理想の定義付けはできませんが、最低限どこかで指揮者や聴き手との協調性は求めてもらいたいもので、それでも、もしも最初から「派閥が違う」としたら指揮者が妥協しなければ何事も成立しなくなってしまう。(リサイタルなら問題がないのですが。)
そんなことから気の毒なことに指揮者が必死になって合わせているように思えて、感情の起伏以前に音符が防波堤に塞き止められ音楽として上手い具合に機能していないように聴こえてくる。
個人的にあらゆるピアノ協奏曲の中でシューマンが一番好きなのに、こんなに長く感じられた演奏は初めてで、早く終わってほしいとばかり考えていた。(速いのに長く感じるって何故だ。)
第3楽章の後半。いつまでたっても互いの溝が埋まらないというか、指揮者は何処に転がるか解らないようなピンポン玉みたいなピアノを一生懸命追いかけ続ける。ところがパチーニは気持ちよさそうに無機質な音色で前進し続ける。遠い席だから確認ができませんでしたが、汗もかかずに表情一つ変えないでいるように見えた。
仲道郁代さんと正反対の感じと言ったらご理解いただけますでしょうか。
近くの席の爺さんが「ブラヴォー!」と叫んでいたので、自分の感覚が駄目なだけかもしれませんが拍手はしなかった。
もしかしたら私が感じた「派閥が違う」は、性格というより本能に近い部分かもしれないのは、パチーニは同性しか愛することができない体質なのではないのではないだろうかと、ふとそんなことを考えた。
しかしどのような状況でも対処する垣内さんは素晴らしく、将来はオペラで力を発揮するかもしれない。今までにない日本人指揮者の誕生なのかもしれません。
チャイコフスキーは良い演奏だった。大物の予感有りです。
前半の影響から、気持ちがすんなり音楽に入れなかったのですが、どうやら5番は感動する仕組みになっているから徐々に若きマエストロの構築する世界に魅せられてしまった。
第2楽章のホルン素晴らしい。
聴きに行って良かった。
劇場を出る時にどこからか「ゆったりした演奏でしたね。50分超えていたでしょう。」なんて聞こえてきた。
私にとっては時間なんかどうでもいい。
コサック人曰く「時計を持たずに劇場に行け。」
いくら素晴らしい音楽でも、終演後に渋谷の喧騒に巻き込まれるからオーチャードは好きになれない。
人ごみが嫌で不健全なホテル街を歩き、久しぶりの名曲喫茶「ライオン」にイン。
普段は飲まないが、暑いくらいでしたからアイス珈琲を注文した。
ドヴュッシーのピアノ曲が流れていたので、コンサートの後でも頭が混乱しなくて落ち着いた気持ちを取り戻せた。
当店の立体再生装置 3Dサウンドシステム 立体バイノーラル・レコード使用とチラシに書いてある。
意味不明。
幸薄そうな女性給仕がアイス珈琲を持ってきた。
飲んで吃驚!最初からガムシロップ入り。あまりの甘さに噴き出しそうになった。
忘れていた。これが名曲喫茶だった。