そこに自分の考えはあるか 吉田秀和の遺言

 7月23日19時30分~NHKクローズアップ現代「そこに自分の考えはあるか、音楽評論家・吉田秀和の遺言」
 吉田先生の業績を語るにはあまりに短い番組だった。
 追悼番組として再放送された「言葉で紡ぐ・・」からの映像の引用が多かったのですが、指揮者小澤征爾さん、音楽之友社田中基裕さん、青山学院大学教授宮澤淳一さん、評論家の片山杜秀さん、白石美雪さん、先生のお嬢様清水眞佐子さんらの言葉が盛り込まれている構成。
 一般論としてきっと素晴らしい番組だったと思うけれど、恐らくそこで拾い集めた言葉は互いに連絡の無い個々の会話の断片に過ぎず、なんだか宣伝用のキャッチコピーみたいにドキリとさせられたり、印象的だけれど常に忙しく、しかも棘々した言葉の連鎖に感じられた。
 なんだか評論を活字として社会に提示してきた先生の有り方とは正反対の表現手段で、きっとこれをきっかけに読み始める人も多いだろうなとは思うけれど、局の編集に駄目出しをしたい気分になってしまった。
 たったの28分だから仕方がない。そうかもしれないが詰め込み過ぎたら消化不良になるのだから、司会と片山杜秀氏の会話だけで充分だったのではないかしら(笑)
 
 肝心の内容は、内容とは食べ物でいうところの旨味みたいな部分で、つまり先生は何を書き何を伝えたかったのか等に関してはもう誰かが書いてくださっていると思いますので、そちらを参考にしていただきたい、と申しますか、本を読んでもらうしか方法は無いと結論付けたい。
 
 冒頭でモーツァルトのF!小澤さんの「大の恩人!」 続いてナレーションで「音楽が聴こえてくるかのような珠玉の言葉の数々。」そして、いきなりシェーファーの歌うドヴュッシーに切り替わり、今度は別のナレーターで「晴れやかな夏空よりは、寧ろ梅雨空の光のような声。」 そして画像はホロヴィッツに、最初のナレーターの声に戻って「名だたる音楽家を、ひびが入っていると評するなど。」 大きなスーパーで「骨董 ひびが入っている。」の文字。ナレーター「・・本音の連続です。」 音楽はショパンブーニン「甘やかされた子供」が赤いこれまた大きな文字。先生の「・・まだ青臭いね。」 戦争の空襲映像、現在の渋谷センター街の様子。もう少し続くがパス・・・・数秒の間に番組は<自分で考えることの大切さ>に意識を集約させる。番組テーマソング。いつもと同じオープニングは早口で元気の良い国谷裕子さん「こんばんは。クローズアップ現代です!」
 暴力的な番組だった。
 
 NHKは時間を掛けて先生に取材した。
 あの時、先生はお元気だった。
 5年も前だ。
 今だったら僕にも解るけれど、生きている人だったのに悪しき国営放送は追悼番組を想定して撮影編集したのだ。
 僕はそれが悔しい。
 
 音楽を聴き、本を読む。
 自分を信じること。
 生きている限り我々には常に思考が要求される。
 美しいものに惹かれたりメロドラマに涙したり、そこまでは誰にだって解るけれど、どんな時だってその先に核が存在する。
 疑問を持たなければいけない、気がつかなければならない、周囲に流されてはいけない、まだまだだけれど僕だって生きているかぎり本質を追い求めたい。
 
 しかし、28分の番組として纏め上げると、
 ひびの入った骨董の、何故態々ミスタッチの部分ばかり選び流すのか。
 長い言葉の一瞬だけを、何故強調するように使うのか。あれでは意味が変わってしまう。
 何故原発の映像を流すのか。
 恐らく解りやすいからだと思うが、解りやすさとは、別の言い方をするなら、そこから先を考えなくていいから楽なのだと思う。
  NHKに「そこに自分の考えがあるのか」と問いたい。