お宝公開 その5 大切な時間

 秋に最後の来日公演を予定しているグルベローヴァ
 動画は今年の5月、ウィーン国立歌劇場「ロベルト・デヴェリュー」のいわゆる「狂乱の場」である。
 昨年のバイエルンオペラ日本公演で聴くことができた作品で、演出はまるで異なるがいつ聴いても懐かしく感じる声。今回が最後の実演と思うと悲しい気持ちになります。
 コロラトゥーラの女神も遂に引退の時期が近づいてきた。
 今年聴くのは同じくドニゼッティの狂乱オペラ「アンナ・ボレーナ」なのだけれど、1946年生まれだから66歳かな?いくら最高の歌姫だったとしても、年齢からあのとんでもない音楽を歌えるのか心配になっていた。
 そういえば昨年の今頃も同じような事を考えていたっけ。しかしそれ以前に原発問題で、カウフマンやネトレプコ他大勢がキャンセルしまくって、もしかしたらグルベローヴァも来ないのではないかと不安だったし、本当に日本は危険なのではないかとまで思っていた。
 放射線の実情はどうなのか解らないけれど、事故から1年以上経過してしまうと感覚が麻痺してくるのだから恐ろしい。
 ただ昨夜のように海岸で花火を眺めていると、あの巨大な津波が「もし今きたら」と思わないわけではないし、恐らく由比ガ浜には10万人はいただろうから逃げるなら何処の高台が良いかなとはちらりと考えた。
 因みに自宅からぶらぶら歩いて15分程度で海岸に辿り着いたけれど、帰宅して(コンビニに寄ったが)部屋の時計を見たら1時間経過していた。つまり助からないと思った。
 改めて震災後来日した演奏家を思い出すと、やっぱり大物はキャンセルしないで来ていたし我々にとってはいつもより感動が大きかったような気がする。ギエムなんか福島で踊ったのだからかっこいい。
 文章が脱線しかけましたが、グルベローヴァの動画がたった2ヶ月前の舞台だと意識しながら聴くと、改めてこの人凄いなと感じたのです。
 神経質な歌マニアは安い席でブーイングしたり、「昔のツェルビネッタや夜の女王やオランピアのようではない・・衰えた」とか言いそうで面倒臭いのだが、もしアンナ・ボレーナの時にそんな族が隣だったら、「馬鹿野郎、自分で歌ってみろ!」と喧嘩しそうな小生である。(冷静になれ、東京文化の5階席で喧嘩したら危険だ。)
 グルベローヴァは年齢と共に役柄を変化させ芸術的な進化を遂げたと考える。
 これオペラのラストシーンだから相当に大変なはずで、しかも最後の高音に持っていく為の強靭な支えは訓練の賜物。五輪で日本のサッカーがたまたまスペインに勝ったとは訳が違うのだ。
 若い時もう少し楽に出せた音も、ギリギリの状態で声を後のほうから回しながら持ち上げていく、これ以上の芸術が存在しないように感じられる。これが本物の歌である。
 しかし、この動画どう考えても盗み撮りにしか見えないのですが、勇気あるウィーンのオペラファンにとりあえず感謝申し上げたい。
 
 その昔、誰かに「三大テナーの誰が一番好きですか?」なんて質問されて、「カレーラスかな。」と返事をしていた。
 あの時は、ハイCの時に眉間の血管が切れるように痙攣させなければ歌えない肉体の限界に魅力を感じていたのに、悲しいかな声が出なくなった現在もまだ高額なリサイタルを続けているのは何故だろう。
 引き際は大切なのです。
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 お宝はこの写真なのですが、本音は写真なんかどうでもよくて、最果ての火出国の勝手気ままな生き方をしている怪しい男と会ってくださる時間を作ってくれた、通常は有りえない状況がお宝なのです。
 ディーバは親切で優しい。ただ恥ずかしいので加工して中原中也に変身。
 歌姫最後の日本公演まで、あと3ヶ月。