丸谷才一氏死去


【貴重音源】丸谷才一「挨拶について」
 挨拶の本について書かれた丸谷先生が亡くなりました。
 ご本人による自作朗読を動画サイトからお借りしました。
 本を読めば、少しばかり鼻につく表現があって、叱られているような気持ちになってしまい読まない時期もありましたが、それでも全てが勉強になりました。
 しかし、叱られている感覚は己に教養が無いだけのことで、常識を身につけるしかない。
 時々懐かしく感じて挨拶の本をパラパラ読み返す。
 音楽がお好きでサントリーホール等では時々見かけていたから、他の文化人とは異なる親しみを感じていたことも事実なのです。
 最後に先生のお声を聞いたのは吉田秀和先生の追悼の会でしたが、ご体調が思わしくなくご自宅で収録されたテープによる弔辞が披露され、「吉田さんは音楽にとって一番大切なこと、聴衆をつくった。」と言葉にされドキリとした。
 丸谷さんはスピーチの達人だった。
 本に書かれていた山口瞳氏の法要では献杯、「久しぶりに飲みましょう。乾杯(カンパイ)。」と言葉にした。
 七回忌の挨拶では「・・難しい文章を書かない人・・上質の文章を書く人・・人生を楽しむ楽しみ方の名手であった。・・酒はどのように飲むのがいいのか、庭木はどのようにいじればいいのか・・将棋に勝ったら負けたら、勝ち負けどのように楽しむのが粋なのか・・・髪の毛が薄い、はっきり言えば禿げている運の悪さを楽しむ。・・瞳さんが照れているような気がします。このへんでよしとします。」
 川端康成先生の「末期の眼」は気に入らないと切りすて、吉田健一氏の「余生」という人生観を好きという。
 吉田秀和先生を、八百長相撲疑惑と世間が騒ぎ始める前に相撲について書かなくなったから「ついている」という。
 中村紘子さんのパーティに、多くの文化人や実業家が列席している光景を見て「どのような知識人をも夢中にさせる人をスターという。」
 村上春樹氏は文壇デヴュー頃の挨拶で、自分の名前と照らし合わせて、村上龍角川春樹の名を出しジョークを言った。それを聞いていた丸谷さんは、若き作家を「要注意人物」と考えた。
 
 これからも、丸谷先生の小説、エッセイ、挨拶の本をよみかえすことでしょう。
 寂しいです。
 
 合掌。
 
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