山路芳久没後25周年メモリアルコンサート その2
数日間仕事が忙しく更新できない状況でした。 忘れないうちに演奏会の感想を記したい。
主催 山路芳久メモリアルコンサート実行委員会(実行委員長・星出 豊 副委員長・稲葉 祐三)
プログラム
レオンカヴァッロ 歌劇「道化師」から 衣装をつけろ T 角田 和弘
歌劇「愛の妙薬」から ラララ・・ Sp 木下 和美 T 角田 和弘
ヴェルディ 歌劇「イル・トロヴァトーレ」から 私の願いを聞いてください Sp 馬場 浩子 Br 折江 忠道
・・・15分の休憩時間
プッチーニ 「菊」 指揮 星出 豊 メモリアルアンサンブル
永遠の美声を偲んで お話 稲葉 祐三 (指揮の星出さんに促され稲葉先生がお話され、山路さんの歌う「フェデリコの嘆き」と「初恋」の一部が会場に流された。)
歌劇「愛の妙薬」から そんなことってあるかしら MS 伊藤理絵 指揮 星出 豊 メモリアルアンサンブル 合唱団「MOA」、合唱団「うたおに」 Pf 北川 裕子
アンコール 「椿姫」から 乾杯の歌
※テノールの永澤三郎さんも出演予定だったのですが、お身体の具合が悪いようでキャンセルされた。
永澤さんはホセの「花の歌」とネモリーノの「ラララ・・」の予定だったので残念でした。
男性歌手陣は山路さんが藤原オペラ「椿姫」に出演された時に交流があったそうで、今回の演奏会は角田さんの呼びかけと、プッチーニ歌劇「妖精ヴィッリ」の日本初演で指揮をした星出さん(山路さんが主役だった)の協力で実現の運びとなった。全員がノーギャラ。そこに稲葉先生はじめ三重オペラ協会の皆様が舞台を支え、女性陣は地元に縁のある歌手が中心。
全自由席で、混雑すると事前に知らされていたので少し早めに列に並び、程がよい場所を確保しました。
受付で忙しそうに仕事をしている姪御さん、その近くで稲葉先生が来賓関係の対応をしていらっしゃった。
山路さんのお写真が投影されている舞台。僕の一番好きな山路さんの写真。
ご家族がステージ近くのお席にいらっしゃるのを見かけご挨拶に伺ったら、お母様が「鎌倉で遠いのに、えらかったなあ、ありがとな。」 (えらかったとは大変だったという意味) 姉上が笑顔で「元気やった?」
兄上が「はい堀内さん、撮影するよ。」とカメラを構えているから(高額なカメラみたい)ちょっと無防備でしたが慌ててカメラ目線。奥様は相変わらずお綺麗な印象で「明日ゆっくりできるのでしょう?」と優しい。とにかく皆さん元気そうで安心しましたし、こうやって再会するたびに元気をいただいているのは自分自身なのだなと思った。
時間前に気がついたことが一つ。お客さんの雰囲気が、僕が埼玉で数年おきに司会をする合唱演奏会開演前のざわつきに似ていて、外来の音楽家がサントリーなんかで演奏する時のような張り詰めた緊張感が全く無いので、少しだけ嫌な予感がしたということ。というのも以前いつものように原稿もなにも持たないでステージに出てトークを始めたら、客席からいきなり携帯電話が鳴り出して頭の中が真っ白になったことがあったからで、別にトラウマになってはいないけれど今でも時々夢に見る。あの瞬間はジェットコースターやお化け屋敷以上の恐怖体験だった。
ここにいるだいたいの人が、実際のオペラを観たことがないのだと思った。アリアに愛着を持てても全曲となると難しいのでしょうか。DVDやCDでも楽しいので聴いてもらいたいな。
数分後その予感は見事に的中。よりによって「人知れぬ涙」で携帯が鳴るって・・・怒!
そういえばサイトウキネン「ノヴェンバー・ステップス」でも同じようなことがあったっけ。それが世間なのでしょう。
僕も寛容にならなければならない。
それで演奏について細々書くこともできるのですが、追悼であることに敬意を払い、今回に限り可笑しな駄目だしはしないことにしようと決めました。
ただ東京から来た男性歌手3人は凄かった。気合の入り方が普通じゃないのは、山路さんとの関係がそうさせているのだと思うのだけれど、他界して25年も経過しているのに彼らの強烈な声は時空を超えて天国に届いたのではないだろうか。もう一週間以上経過したのにまだ頭の中で響いている。
持木さんの強靭な声質ではホールが小さすぎるのかもしれない。だからといってリージョンプラザの響きに合わせるような気持ちは最初からないみたいで、山路さんへの思いを内なる世界に叩きつける。もう鼓膜が破れそう。ベルカント系のオペラ上演ではありえない情熱的なネモリーノとして結実した。
角田さんは「カルメン」幕切れ殺しのシーンが最も印象に残った。本当にカルメンを殺してしまうように思ったのは僕だけではないはずで、ここまで役柄に没入させる感情はどこからやってくるのだろうか。少し前まで永澤さんの代役で急遽歌われた「ラララ・・」ではお客を笑わせていたのに、どのタイミングで切り替えたのかな。
折江さんは素晴らしい声質のバリトンで、ジェルモンのアリアは「いい声だな。」と冷静に聴いていられたのだけれど、ルーナ伯爵のあの長い二重唱でクラクラしてしまい。きちんとしたオペラでヴェルディが聴きたいと思った。あまり身体を動かさない特徴が好ましく、おそらくどのような姿勢でどのように歌えば理想に近づけると、常に研究しているのではないだろうかと想像した。
それで女性歌手の声は印象が薄い。今回は三重の音楽家についての言及を避けたい。歌手だけではない。オケも合唱も同じこと。ただ皆が頑張っていたと思う。
星出さんはマエストロ。数回にわたり津市に通い音楽を作り上げた。稲葉先生のお話に興味津々。
「ナブッコ」のあと鳴り止まない拍手の中、お母様が舞台に呼び出された。綺麗な御着物、音符のデザイン。
マイクを向けられ「みなさん、ありがとうございました。」
その姿を見ながら津に来て良かったと思った。
僕の隣で聴いていたテナーの宮西君は、終演後角田さんにご挨拶されていて、その流れで少しだけお話をすることができました。まだ熱気が感じられた。
後日談、角田さんはステージ上から満席の会場を見て、「この中に山路さんがいる。」と感じたそうです。
その昔ミュンヘンに留学されていて、右も左も分からない時に、国立歌劇場専属だった山路さんはご自宅に招待し優しくアドバイスをされたそうです。そしてある日山路さんは藤原「椿姫」アルフレードのオーディションを受けるように背中を押した。それが角田さんのオペラデビューだった。
その話を打ち上げでお話しされ、角田さんは号泣したとのこと。
アリアだけでも役柄に没入される理由は山路さんの優しさに由来することだと理解できた。
ロビーに飾られていた読売新聞の記事。
そのあと我々はお茶して、居酒屋に移動して乾杯し山路さんについて語り合った。
居酒屋のカウンターに「祝開業25周年」とメッセージが記されているお花が飾られていた。
奇妙な数字の一致。四半世紀を初めて意識した。
深夜山路さんのお姉さまと姪御さんに誘われてチェーン店のカフェでお話をした。
「あのな、打ち上げで席が空いててな、だったら来てもらえばよかったにい。来たかったやろ。」・・・って
「だったら早く電話してくださいよ!」
その3に続く。