ウィーンフィル川崎公演と超一流について

 ウィーンフィルハーモニー管弦楽団演奏会
 9月22日19時開演 ミューザ川崎 
 指揮は若きマエストロ、グスターボ・ドゥダメル
 今回はブログ友達のKさんがご家庭の事情で出かけられなくなってしまい、最安席ということもあり喜んで代役をつとめさせていただいたのです。昼間ちょっとだけ仕事があった関係で、夕方そのままミューザに向かった。まずホール近くのカフェで珈琲タイム。なんと隣の席に団員さん(トランペット奏者)がいて、時計を気にされながらサンドイッチを食していらっしゃった。
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 実は前日に珈琲の名店「ダフニ」Daphneを訪問しhttp://www.daphne-coffee.jp/吉祥寺モカ巨匠襟氏を目標と語るマダム桜井さんお手製のマンデリンとモカ・イルガチェフを堪能した。そこでうかがったお話が興味深く「誰でも堅実に仕事を続けていれば一流になれるけれど、超一流になるには生まれながらの感性に由来すると襟さんが言っていました。私は焙煎からなにもかも下手なの。超は襟さんと銀座のランブル。」と謙遜するが、とんでもない話でこれほどまでに優しさが凝縮された香り高き珈琲はそう簡単に出会えるものではない。濃厚な色合いであるにもかかわらず過度な苦味のないマンデリン、更に驚いたのはイルガチェフでフレーバーな特徴はアールグレイの如し。「ミルクを入れるとミルクティーになるの。」と平気にもったいないことを言う。でもせっかくだから最後の一口で試してみた。「美味しい。」
 お宝を見せていただいた。写真のお許しにも感謝しています。2007年吉祥寺で焙煎された豆は店主死してなお今でも輝いている。何故油分が表面に出てこないのか色素が変化しないのか、答えは誰にも解らない。匂いを嗅がせていただいた。さすがに劣化しているもののモカ特有の酸が刺激的。これは奇跡だ。
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 ダフニはアポロンの求愛から逃れ父である河の神に自らの容姿を変える事を望み、父はダフニを月桂樹にした。愛の永遠の証としてアポロン月桂冠を身につける。
 話が飛躍して恐縮ですが、ミューザにおけるアポロンはRシュトラウスでダフニはコンサートマスターのライナー・キュッヘルであったと断言したい。「私たちの音楽を邪魔しない人が理想の指揮者。」捕らえ方によっては鼻につく発言だけれど、Rシュトラウスを聴けばそれが正しいと分かる。音楽には香りが存在する。デカダンスをギリギリのところで抑制させながら、明日になれば腐食し手に負えない果実のような豊かな香りは、かつてクライバーが表現した触れてしまうとバラバラになってしまいそうな薔薇の花びらの一枚一枚を思い出させた。ドゥダメルは大きな音や加速するテンポを要求するものの、ベネゼエラやスカラ座の時のように音楽を強引にドライヴはさせない。マゼールティーレマンのように私事を強制させることもしない。両者の関係は良好に感じられた。見方を変えるとコンサートマスターが恐ろしい存在なのかもしれないけれど、こんなに素晴らしいツァラトゥストラは二度と聴けないのではないかと思われた。精神と自然の狭間で揺れ動く甘美な世界を本質的にニーチェが望んでいたか疑問だけれど、作曲家の意図をキュッヘルさんが絶妙なタイミングで(指揮者を指揮した印象)作り出した。なんて素晴らしい音楽なのでしょう。
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 素直な感想としてRシュトラウスでお腹いっぱいになってしまったけれど、休憩時間ロビーに展示されていたクリスタルとモーツァルトの譜面を眺めながら徐々にドヴォルザークモードへ脳を変換。その後なにか記念にウィーンフィルグッズ買いたい衝動が沸き起こる。シルクのネクタイが5000円。Tシャツが2000円と適正価格だとは思うけれど手が出せない。そのとき良い物を発見。
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 500円の眼鏡拭き。
 最近眼鏡をしているからも理由だけれど、ある考えを思い浮かび洗面所で一工夫。
 たまたまネクタイと合う色調だったのです。身につけるものが変われば気持ちも変わるもの。
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 8番は名演だったと思うし事実盛り上がっていたが、ドゥダメルさん「1楽章の後半ちょいと音がデカすぎなのではないですか?」それ以上に気になったのはアダージョとアレグレット楽章で、期待とは裏腹に無感動な音楽が構築され、勝手な想像だけれど、もしかしたらマエストロはウエルテルのような恋愛経験が無いのではないか等と思われた。つまり死にたくなるような失恋。全体的に淡白ということ。「マエストロよ、人生ろくなことはない。ネガティヴな発想こそ美しさを彩るもの。」と語りかけたくなった。大切なものを喪失すれば詩人になれるのです。
 終楽章コーダはドゥダメル効果全快の誰もが望んでいたイキイキした世界だったが、バーンスタイン的(ウエストサイドストーリーのシンフォニックダンスみたい)だったから、オケのメンバーが「マンボ!」とか言い出したらどうしよう(笑)と一瞬奇怪な不安が頭を擡げた。
 アンコールは有名なポルカが2曲。Jのほうのシュトラウスだってウィーンフィルは他の追随を許さない。
 結果、超一流の音楽に酔いしれた。
 終バスにギリギリで間に合った。