1Q84・BOOK3

 村上春樹「1Q84・BOOK3」について
 31章からなる作品だからゴールドベルク変奏曲なんだなと。
 1と2が平均律で3でまたバッハに準えるのは至極当然であり、ただ不運だったのは31章にしなければ完結しない「長さ」にあり些か間延びした感を持った。
 世間では賛否あるみたいだけれど、私は面白く読んだ。
 1984年は確かその2年前に他界したG・グールド最後の録音シリーズCDが店頭に並んだ時期に符合し、あのゴールドベルクは勿論Rシュトラウス初期のソナタ等をを何度も聴いた時の自らの精神状態を思い出す。
 将来の希望を夢想するのでもなく恋愛感情とも違う、もう少し現実的な緊張感に安らぎが同居している感じ。
 初めてきちんとしたレストランで食事をした時の雰囲気と表現したらわかりやすいでしょうか。
 恐らく当時父が亡くなった事に起因しているように思えるのだけれど、バイトかなんかで手にした現金を手にCDも高く買うにはそれなりの覚悟が必要で、山路芳久さんが主役を演じた「愛の妙薬」を新宿文化センターに聴きに行ったり、中村屋の3階でカリーを食べたり、とにかく私は自由に生きることを許された。
 それはけして望んでいた形ではなく、溝から汚水とともに川に流された野球のボールのように、果たす役割とは別の世界を受け入れざろうえない極めて虚無な現実だった。
 それでも今以上に感動があり、あらゆる物事が新鮮に思えたのは若さということだったのだろうか。
 今年に入ってから一度も音楽会に出かけていない。
 正確な言い方するならクリスマスにディナーショウの司会したり1月に舞台で朗読したけれど、あれは聴きに行ったことにならないから、秋に二期会のオペラ観てから劇場に出かけていないことになる。
 ぼんやりしていても時間だけ消費してしまい情緒も何も無い。
 自ら1Q84を創造する訳にもいかないけれど、少し変えてみてもいいかなと思った。