1・4(未来を予防する)

 演出家クリストフ・マルターラーについて調べていたら面白い記事を見つけました。
 それは慶応義塾大学の平田栄一朗氏の論文で、2005年の「トリスタンとイゾルデ」は評判が芳しくないがと記した上で、その年の5月にウィーン芸術祭で初演された演劇「未来を予防する」を高く評価しているというもの。
 簡単に説明すると、戦時中にウィーン近郊のオットー・ワグナー精神病院でナチスの手により患者が数千人安楽死させられた史実に基づいた儀式めいた演劇で、現存する広大な病院の敷地が舞台である。
 観客は入り口で列車に乗りパビリオンに移動、資料や写真を見学、再び列車に乗り別のパビリオンに移動し患者達の再現されたインスターレイションに出会う。そこでは子供の絵が並び、スピーカーから名前・病歴・死亡日等の情報が流れ痕跡を体感する設定。それから観客は劇場に入り子供の仮面をつけた役者の歌や演奏を聴く。それは当時行われたであろうコンサートの再現と考える。
 休憩時間も休みを与えないようにロビーやトイレのスピーカーから病歴が聞こえ、観客は常に死者と対峙しなければならない。後半は夜中のホール、子供の仮面をつけた俳優が、まるで死者が蘇ったように無邪気な遊びや音楽を奏で、観客は当時の子供たちの密やかな遊戯を傍観する立場になる。開始から約5時間、子供たちは暗闇に姿を消して終わり。なんとも不気味で凄い内容。因みに物語性は無く台詞も断片的で意味不明とのこと。
 イメージとしては「夜のしじまに行われた追悼劇」とあるが、私なんかは想像しただけで恐ろしさを感じてしまい、どうしたって冷静ではいられない。
 「トリスタンとイゾルデ」を発表したのが「未来を予防する」の約2ヶ月後ですから、どう考えても相互関係がありそうで、先日DVDの感想を適当に書きましたが、演出の意味の半分くらいは当たっているのかな?それでも大切なメッセージを見逃している気がしまして、何回でもしっかりと鑑賞しなければいけないようです。
 それから私はもう少し早くマルターラーについて気がつき考察するべきだったのは、驚いたことに去年演出家は日本に来ていて、「巨大なるブッツバッハ村・ある永遠のコロニー」という作品を上演していたのです。
 それは宮本亜門さんも絶賛していて、観たかったなと残念至極である。
  どうやらドキュメンタリー映画「家族会議」なんていう作品もあると知り、マルターラーを少しずつ探求してみてもよさそうです。フィガロの結婚」のDVDもありまして、なんとシェーファーが出演している。
 フランスのパトリス・シェローは好ましく「リング」と「ルル」等のオペラ、映画も日本で上演されたものは全部観たのですが、スカラ座での「トリスタン・・」は話題になったのにまだです。
 知らないことが沢山あります。まだまだこれから。