清岡卓行「サンザシの実」

 近所の古本屋で清岡卓行「随筆集サンザシの実」(昭和47年)を入手。珈琲飲みながらパラパラ読んでおりました。
 著者は1922年大連生まれ、東大仏文卒、法大教授。
 詩集「ひとつの愛」・評論集「手の変幻」・「抒情の前線」・小説「アカシヤの大連」(1970)・「フルートとオーボエ」(1971)・「海の瞳」(1971)・「鯨もいる秋の空」(1972)etc。「アカシヤの大連」で第62回芥川賞受賞(昭和42年)。
 芥川賞受賞時著者は47才、それまでは詩壇での活躍、小説の分野ではとりあえず新人ではあるけれど、今更受賞も九分は無いと思っていた。候補作品リストが1月半ばに新聞に出て、親戚や友人からよかったねと言われて困惑したと作中「浮遊感覚の一夜」に書かれている。
 しかし人間は希望を持つように罰せられていると考え、文芸春秋からの電話にそわそわし始め、旧制中学合格者発表の時みたいに何とも落ち着き無い、それを浮遊感覚という。
 運命の皮肉、賞を貰うことに無垢を確認しながら、インタヴューで緊張しないようになんて思う。
 小学生の一人息子の手を握り、マスコミに忙しく対応する情景は流石詩人シンプルな中に一本筋の通った言葉で表白し、ジャーナリズムが苦手でもしばらくは責務と己に言い聞かせる。
 慌しい一日が終わり、それでも朝は早く電話でのラジオインタヴュー、そしてNHKが迎えにくる予定。
 深夜漸く静寂を取り戻し仏壇に線香を点す。「アカシヤの大連」のモデルであった亡き妻の位牌を、手を合わせておがみ、冷たいものが頬を流れた。
 清岡さんは5冊しか読んでいなくて、それでも読むと感動するのは、無駄の無い美しき詩人の言葉だから憧れます。
 偶然にも今日が芥川賞の発表で慶応の院生この女性の家系は凄くて知識人のそれ、もう一人が昔父親が逮捕されたという中学卒以来のフリーター40代の男性「風俗に行こうとしたら電話があった。」そうな。なんでもいいから面白い本だといいな。
 昔と今では選考委員の質が随分と違うのですから、今の選考委員には感心できないし、私だったら嫌だな。
 ただ受賞者の浮遊感覚は昔も今も同じようなものでしょう。