〈永遠の故郷〉の完結。「夕映」吉田秀和

 最近は古書店ばかりで普通の本屋に行っていなかったから、吉田先生の「永遠の故郷」が完結していたとは知らなくて、慌てて購入した。
 これは四部作「夜」「薄明」「真昼」、そして今回の「夕映」は特に感慨深い内容で一頁一頁噛みしめるように読んだ。
 ライフワークが完結「今、ついに目標の港に漕ぎつけるところまで来て、感無量。」歌をめぐる「失われた時」を求めて、〈永遠の故郷〉の果てへと誘う・・と帯に書かれていて、悲しい気持ちになりますが、先生は今回の書物を自身の「白鳥の歌」とお考えのようです。
 一回読んだくらいでは勿体無いと感じるのは珍しいことで、暗記するくらいに読み込みたい。
 この本は大切にしなければいけない。
 シューマンとハイネによる傑作に美しさと少々の汚れを見出し、優しい言葉の連なりだけれど突然刃物に切り裂かれたような行間を提示し、唐突に芭蕉を引用する辺りご高齢とは思えない程、切ないくらいに瑞々しい。
 想像はしていたけれど、今回はシューベルトが中心だった。
 やはりハイネの詩による「ドッペルゲンガー」・・涙が恐ろしいように美も恐ろしい。
 あまり内容に触れたくないのですが、最後の章では、先生の戦争体験と若き日に「魔の山」をお読みになり感受された恐怖と驚きを表白され、しかし生命の根に深く根差し最高の芸術作品として「菩提樹」を語る。
 情けないけれど泣きそうになるくらい感激した。
 そして私は、改めて「ああシューベルトを聴かなくては!」と思った。
 全ての音楽好きに推薦いたします。