駅までの道をおしえて

 伊集院静「ねむりねこ」「駅までの道をおしえて」の文庫本2冊購入した。
 本当なら先生の書かれた順番に読むのが理想なのでしょうが、何だか調べるのが億劫で本屋で目に付いたもので気になる題名から読んでいる状況。
 「ねむりねこ」は随筆集で表紙に熊谷守一画伯晩年のデフォルメされた猫の絵が印刷されている。
 私は熊谷守一が好きでそれだけの理由で買ったようなもの。
 2003年に発表された作品だけに比較的最近の話、例えば9・11のテロがあった頃の話とか、ジャイアンツの松井秀喜がメジャー行きが決まった頃の話などが出てくるから私事として感じることができる内容。
 そんな中で「椿の葉」というタイトルのエッセイがありまして、不思議と惹きつけられて私は冷静でいられなくなった。
 花屋に入り「花はすべてのものが開花するわけではない・・」と考える。
 「全ての花が結合したら野山は花だらけになり、そんな自然は空恐ろしい・・・
 本来そこにあるはずのない花が、隣り合わせることのない花が、同じ場所で息づいている・・・」
 その残酷さに極端な飛躍かもしれないけれど家族の絆を見出し、記憶を探りながら若き父の繊細かつ思いがけない所作、大胆な行動に作者の思いを投影させる。
 例えば子供たちが可愛がっていた犬が死に、泣き出した子供たちを父親は叱責し、ひとり犬を抱きながらスコップ片手に愛犬を埋めに行く。暗闇の中で父はどのような表情なのか想像する。
 「椿の花は美しい・・・落下した時の腐敗した醜状を何度も目にして、それが滅びた人間の肉体と重なる」
 作者は、艶やかでいかにも強靭そうな葉のありように着眼し大人の気骨に相通じると考える。
 私はエスプレッソ珈琲でも飲んだみたいに文章に覚醒してしまった。
 今夜こそ音楽でも聴こうかなと考えていたのに、他の事は如何でもよくなってしまった。
 「ねむりねこ」を全て読み終わり、時間を空けて今度は「駅までの道をおしえて」。
 こいつは短編集で約300頁の中に8つのお話がある。
 表題の「駅までの道をおしえて」は本の最初の小説で、少女と愛犬の物語で脱力した気分で読み始めたのですが、もう駄目、途中から泣きながら読んでいた。
 私は小学生の時に犬を飼っていて、今思えば飼っていたのではなく一番の友達だったのですが、交通事故で死んでしまい悲しい思い出になってしまっている。
 トラウマみたいな気持ちは少ないほうが幸せだと感じるのだけれど、回避する方法なんて存在しないのだろう。
 今日はその先を読めるはずもなく、一晩寝てからその先に駒を進めたい。