オペラ鑑賞と貧しさ

 人生の分岐点だったのか、オペラに目覚めた瞬間ははっきり記憶している。
 中学生時代にレコードを買うお金が無かったので、もっぱらFMばかり聴いていました。
 自分の音楽に対しての好みもよくわかっていないから適当にカセットテープに録音しては夜に聴いたりして、それがカラヤンだったりベームだったりこれといった感慨もなくBGMみたいなものだったと思う。
 それでも毎日の聴く習慣で音楽を覚えることができたことは確か。
 そんなある日オペラアリア特集の番組があって、たぶん勉強もしないでギャルロフ「闘牛士の歌」やカラス「ハバネラ」とかフレーニ「私の名はミミ」等で「オペラもいいな。」と、とりあえず録音をしていた。
 そんな中「これは素晴らしい!」と夢中になれそうな歌が流れてきた。
 「何て人の歌かな?」と思って曲紹介に集中してみたら
 「テノール歌手ルネ・コロさんでカールマン作曲マリッツァ伯爵夫人から[甘く美しいご婦人方よ]でした。」と解説者が言った。
 この出来事が私の人生を狂わせたと断言できそうである。
 季節は秋だったと記憶しているのは、夏までは部活動がやたら忙しくて、ある程度の成果を出せたから高校は推薦が決まっていて受験勉強した記憶が無いから、かなり適当に過ごしていたような気がする。
 翌日おこずかいを掻き集めてレコード屋に向ったのだけれど肝心のコロなんか売ってはいない。
 そこで店主に聞いてみたところ、「その人はワグナーを歌う人で数枚全曲盤ならありますよ。」と教えてくれた。
 そのあと一際分厚い「ニュルンベルクのマイスタージンガー」と「タンホイザー」のレコードを見つけ出したのですが、とんでもない金額で買うことができなかった。
 あの頃はレコード1枚でも2,500円はしたのだから、今のCDと同じようなもので改めて現在では随分低廉というか価格崩壊としか考えられない。
 その後色々な事があって、中抜けしているから以下の出来事が自分の話とはいえ俄に信じ難いが、実演で何度もコロに接することができたのですから私は幸せだったのでしょう。
 ジークフリート、トリスタン、パルジファルワルタータンホイザーローエングリン、オペラアリアの夕べ、詩人の恋をはじめとするシューマンの歌曲、それからアイゼンシュタイン・・・しかも上記は複数回で場所も日本に限っていないのですから何回聴いたのか数え切れない。そういえばニューオータニでファンのご婦人方10人位取りまとめ、お茶したこともありました。あの時はとっても面倒くさくて大変でしたが最後に「ご苦労さん!」とコロに肩を叩かれた。
 たぶんFMで聴いたカールマンで何か感じて、ワグナーを特に実演で鑑賞したことで「この人の歌好きだな・・」が「尊敬に変化・・」そいつが「生き様に触れたい・・」になったのだと思うけれど、結論として「私は音楽が好き!」なのでしょう。
 そう考えたら私にとってCD等は音楽の確認の作業の為に存在しているだけかもしれない。
 お金なんか昔からありゃしない。
 ちょっとした優先順位の関係だけで、免許はあるけれど車は買ったこと無いしCDは中古屋が中心で本も新刊以外は古本屋ですし、ただ人生で正しいお金の使い方をしたいだけだと思う。
 だからこれから「ローエングリン」聴いてきます。