最も危険なテノール チェッケレ

 「テノール馬鹿」企画の第4弾として、ジャンフランコ・チェッケレを紹介いたします。
 アップする動画に悩みましたが、レオンカヴァルロ歌劇「道化師」第2幕の劇中劇のシーン「もうパリアッチョではない・・」にしてみました。
 この人は極端に録音が少なく、カラヤン指揮の「カヴァレリア・ルスティカーナ」くらいしか思い出せないのですが、動画サイトで沢山聴けるのですからオペラファンにとっては大変に幸運なことである。
 それも隠し撮りの酷い映像ばかりでどうしようもないけれど、爆発的な歌唱力は旧アナログ時代の粗雑な音と画像を超越し迫真に満ちた歌声がやってくる。
 もう10年も前なのですが、「マルティヌッチ、ボニゾルリ、チェッケレ、3人によるオペラアリアの夕べ」というとんでもない演奏会が池袋の芸術劇場で予定され、私は発売日に速攻でチケットを確保した。
 しかし残念な事にチェッケレが体調を崩し来日できなくなり、残った2人のジョイントコンサートになった。
 冒頭、ボニゾルリが‘我々の仲間がこの場にいない悲しみ、病の回復を祈りたい。今宵彼の分まで私たちは歌う‘と挨拶をした。
 この日マルティヌッチは完璧な歌唱。ボニゾルリは得意のハイCを失敗したのですが、聴衆は彼らの功績と難しいアリアばかりのプログラムを組んだ勇気に対し歓声で答えた。
 思えばあの日ホールはガラガラに空いていたのですが、テノール馬鹿の演奏会に出没するファンは私を含め馬鹿ばかりでしょうから仕方が無い。
 つまり私はチェッケレだけ実演で聴く機会に恵まれなかったのですが、色々調べてみるとチェッケレこそNO1のテノール馬鹿のかもしれないと感じられてくる。
 イタリーのどっかの劇場でアリア後に天井桟敷から大きなブーイング。
 オペラの途中なのに怒ったチェッケレが客に対して「どこがいけないんだ!」と叫んだ。
 お客も凄いのですが「声だ!」と言い返した。
 また別の伝説もあって、店で酔ったチェッケレが別のお客と大喧嘩。
 警察が彼らの仲介に入り、「お前の名前は?」と質問したら、「ラダメスだ!」と返事したそうである。
 (解説・・ラダメスはヴェルディ歌劇「アイーダ」の主役の名前。)
 そういえばボニゾルリも信じられない伝説があり、マンリーコのアリアで彼の代名詞でもあるハイCに対し、「そこまで伸ばさないで歌ってもらいたい。」と指揮者が注意した。(公開リハーサルでの出来事。)
 あの音に命を掛けているボニゾルリは怒り爆発、小道具の短剣を指揮者に投げつけた。
 その指揮者とはカラヤンである。(翌日代役のドミンゴがやってきたそうな。)
 ここまできたら奴らは馬鹿というより変態かもしれないのですが、憧れてしまう生き様。
 素晴らしい。