清きアイーダ マルチヌッチの力強い美声に感動。

 「テノール馬鹿」第9弾
 第1回で紹介させていただいたニコラ・マルティヌッチのアリアを紹介させていただきます。
 前回はマスタークラスの講師だったので、今度はちゃんとした舞台映像です。
 夏のヴェローナ音楽祭ヴェルディ作曲「アイーダ」から主役ラダメスの歌う「清きアイーダ」である。
 「清きアイーダ」はテノール泣かせだと感じていまして、第1幕の出だしでこのアリアですから、舞台最大の見せ場のひとつがいきなりやってくるのですから、ある程度は声帯を温めておかなければ乗り切ることができないと思われる。
 一昨年のスカラ座公演でヨハン・ボータが美声を消え行くように歌い、本当に途中で声が出なくなってしまった悲劇的な光景をみているだけに、聴き手も緊張感が強いられ会場が張り詰めた空気になってくる。
 マルティヌッチはどの役柄でも大きな失敗はしないように感じるのですが、コントロールの調整が見事なのだなとこの動画で観察することができる。
 モータースポーツF1でタイヤ交換をした場合に路面温度とニュータイヤの関係で、最初のうちはたいていのレーサーは1周目に手こずるものですが、オペラの舞台でも似たようなものかもしれない。
 マルティヌッチは歌いながら自分の調子の悪さを恐らく感じていて、特に歌い出しと語尾に微妙に声が引っかかる状態に陥っている。
 しかしこれぞ舞台人、全く慌てた様子も無く、誰にも気がつれないように徐々に声質をコントロールし、音楽のクライマックスに向けて調子を上昇させてゆく。
 そして最後は誰もが満足する結果を勝ち取り、喝采を受ける。
 もうなんともいえない、めちゃくちゃかっこいい!
 私好みの輝かしい声であります。
 この人は凄いライブ音源がありまして、それは「アンドレア・シェニエ」のアリア。
 次回紹介させていたたこうかなと考えています。