バレンボイム1999年の「マイスタージンガー」DVD

 お茶の水ディスクユニオンでワグナー楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」のDVDを購入しました。
 バレンボイム指揮ウォルフガング・ワグナー演出1999年バイロイト音楽祭の舞台ですから随分前の演奏なのだけれど、なんだか観ないままでいたし、輸入の中古盤だから安かった。
 それで月曜日に第1幕と第2幕、昨日第3幕を鑑賞した。
 バレンボイムのワグナーは粗方ライヴで観てきたのですが「マイスタージンガー」はどういうわけか初めてで、想像していたように素晴らしい演奏だと関心いたしました。
 ベルリン国立オペラが今度いつ日本に来るのか分からないけれど、「マイスタージンガー」を聴いてみたい。
 出演者はだいたいどこかで聴いてきた人ばかりですから新鮮味はないものの親しみはあって、エヴァなんかバイエルンオペラ日本公演「ローエングリン」で聴いたばかりのエミリー・マギーで、エルザは厳しいと感じたのにエヴァなら悪くないなと思いました。
 ザックスのロベルト・ホルもワルターのザイフェルトも納得の歌唱で暫しのワグナーモード。
 歌手の中に突き抜けた存在の人はいないけれど、常に美しく名人ばかりが歌うバッハのミサのように皆が上手い。
 ウォルフガング演出はその前のシュタイン指揮でヴァイクルやイエルザレムなんかが出演していた舞台と基本は同じで、以前は細かくリアルな中世の街を再現していたものの、99年版では装置が簡略化された影響からか出演者の動きが明瞭に感じられてこれはこれで好ましい。
 つまり革命的なテーマ思想なんか何も無いように見える。
 たぶんドイツ的な計算の確かさ、ワグナーが提示した緻密さが堅実に構築され無駄が感じられない。
 そいつは視覚以上に聴覚でやってくるのですからマエストロの技量が並みの存在ではないことを証明しているのでしょうが、感動的な舞台か?と問われた時に、(実演で接すれば勿論感動するはず・・)もっと人間臭さがあったら心動かされるのではなかろうかと思ってしまった。
 どこを見ても完璧な演奏と演出のように感じるのですが、例えば工業用のドイツ製品は日本製と同じように確かな技術でユーザーに安心を提供しているように思うのですが、人生の悲しみと喜びや潤いより壊れにくさを優先させているとしたら、決定的な芸術上の遊び心が欠落しているような気がしなくもない。
 人間は走れば息が続かなくなるだろうし、暑ければ汗が出るし寒ければ凍えるはずで、私が神経質なだけかもしれないけれど、ちょっとした余韻程度の湿度みたいなもの。
 否定ではありませんし寧ろ肯定なのは、一番素晴らしい「マイスタージンガー」DVDのような気がするから。
 バイロイトは実験劇場と呼ばれ最近はト書きどおりの演出なんか存在しないでしょうから、恐らく最後の真面な演出なのかな。
 鎌倉の紅葉はもう少しで見ごろ。