「エフゲニー・オネーギン」からレンスキーのアリア 名歌手アトラントフ

 
 これまでイタリアの歌手ばかり紹介してきたテノール馬鹿プロジェクトですが、少しばかり息苦しさを感じてきたので他国にも足を延ばすことにした.
  なにもイタリアだけがテノール馬鹿でもあるまい。
 今回はロシアの偉大な歌手ウラディーミル・アトラントフである。
 たぶん録音から判断すると20~30年程前が全盛期だったような気がするが、PCで調べてみたら現在は白髪の紳士で、年を重ね更に顔つきがおっかなくなっていて、ロシア版の「ゴット・ファーザー」みたいな印象。
 個人的な思いとしてはロシアではなくソビエト連邦の象徴のようなオペラ歌手である。
 というのも真冬に私が欧州放浪の旅みたいなことをした時に、少しでも旅費を安くしようと考えてアエロフロートに乗りモスクワ経由でオランダとドイツに行ったのですが、なんと旅行中にソビエト連邦が崩壊した。
 振り返ればあの時は飛行機のダイアが滅茶苦茶で、「この国大丈夫かな?」とは少しだけ思ったけれど、まさかソ連が無くなるなんて考えもしなかった。
 正確にはモスクワで乗り換えた次の日が崩壊で、旅客機の中で「プラウダ」を貰って友人のお土産にしたのですが(友人はレーニンを崇拝している共産主義者。)恐ろしいことにソビエト最後の新聞なのだから価値があるのかもしれない。
 帰国後「お土産です。」とモスクワ空港で買ったチョコレートと一緒にソビエト最後のプラウダを渡したら、「こ、こ、これは・・」とやたら興奮していたことを憶えている。
 話は飛びましたが、旅先で私は偶然にもアトラントフを聴くことができたのです。
 思えばあの頃、太い声質のテナーが世界的にいなくて、今でも同じような感じかもしれないけれど、ヴェルディオテロを歌える数少ない歌手の一人がアトラントフだった。
 他にはプラシド・ドミンゴ、カルロ・コッスッタ、ジェームス・マクラッケン、ジョン・ヴィッカーズ等がその人たちで、最初からメディアに乗っかっているようなドミンゴが(一番上手いけど・・)好きになれなくて、若すぎた小生の課題なんて言ったら大袈裟かもしれないが、ドミンゴ以外の大物歌手を「どうやったら聴けるのかな。」なんて妄想していた。(別の機会だけれどヴィッカーズは引退する直前に聴けた。)
 そう考えたらDVDになっているディアゴティー二1回目で売り出した、クライバーが振った「カルメン」なんか、オブラスツォワがカルメンマズロークが闘牛士だから、当時最高のメゾとバリトンソビエトから呼んだわけで、どうしてホセがアトラントフではなくドミンゴなのか納得できない。
 そう思っている人はあんまりいないと思いますが。
 ただ幸運なことにバイエルン国立歌劇場がアトラントフ主演の「スペードの女王」を上演していて、そのライヴCDがオルフェオから売られております。これは最高のアトラントフが聴けます。脇役ながら山路芳久さんも出演されています。
 youtubuでアトラントフの動画は沢山あってそこそこ楽しめる。
 「カルメン」はロシア語だけれど全曲観れるし、「オテロ」や「道化師」のアリアはイタリア語で、それからとても若い時の「椿姫」、これもロシア語でアルフレードのアリアが映像は無いけれど聴けます。
 イタリア歌曲や「グラナダ」もレオンカヴァルロ「朝の歌」、「ビー・マイ・ラヴ」なんてロシア訛りの英語で歌っている。
 ポピュラーソングは国営テレビ用に録画された物みたいで、つまり歌は別テイクです。
 色々聴きまくり、当たり前ですがロシア語のライヴが素晴らしい。
 そこで、チャイコフスキー歌劇「エフゲニー・オネーギン」第2幕からレンスキーのアリアにしました。
 コンサート形式の演奏。
 前に押し出すような歌唱が素晴らしい。
 オネーギンとの決闘シーンの前に歌われる悲しき調べ。
 プーシキンそのままの人生のよう。
  この旋律の温度はかなり低い。