バッハBWV147・5 私のクリスティーネ

 バッハ、カンタータ BWV147から第5曲である。
 ソプラノのクリスティーネ・シェーファーの独唱、アーノンクール指揮ウィーンコンツェントゥスムジクスのライヴである。
 シェーファーは最も好きな歌手。
 美しい声は勿論のこと技術的にも器用で、そして何よりも清々しい魅力がある。
 妙にオペラ的な主張が過ぎるとバッハのカンタータは台無しになってしまうが、アーノンクールの繊細な指示に従い天使のような声を響かせ、聴き手は敬虔な世界に導かれる。
 昨年アーノンクールが最後の来日と公言し、バッハ「ロ短調ミサ」、ハイドン天地創造」を演奏してくれた。
 巨匠が演奏してもミサ曲の場合はお客が入らないのか、サントリーホールは驚くほどガラガラ。
 私は天の声を聴いた。
 「汝、空いている高い金額の席で聴くのです。」神様に言われちゃ仕方がないなと、途中からS席に移動して最高の音楽に酔いしれた。
 ただ、残念なことにソプラノはシェーファーではなかった。
 来日直前のウィーンでは歌っていたので、どこかで代役を期待していたのも事実。
 レコーディングでは幾つかアーノンクールと共演していて、例えばモーツァルト「レクイエム」で、あの歌唱は深遠だ。
 私はシェーファーを求めシェーファーのCDを聴くのだが、宗教曲の場合彼女の声は音楽の中に溶け込み、気が付けばバッハだったりモーツァルトに夢中になっているのは、単純にアーノンクールマジックにやられているだけかもしれないが、それでもいいからと天使の声を追い求める。
 彼女のオペラはまた別の機会に紹介していくつもりだが、ポピュラーな作品では「椿姫」ヴィオレッタ、「リゴレット」ジルダ。
 しかし私が最もシェーファーに相応しく適正と感じられるのはアルバン・ベルク「ルル」である。
 グラインドボーン音楽祭のDVDがあって最初に観たときから、もうどうしようもない「完全に惚れた!」から、ソプラノ歌手は優秀な人材が沢山いるけれど、この声と演技に出会うために音楽を聴き始めたのではないかと思うくらい。
 DVDといえば「詩人の恋」&「月に憑かれたピエロ」がありまして、驚いたのは映画のように編集されていて、といいますか完全に映画なのだけれど実に面白い。
 「詩人の恋」は朝起きるシーンから始まり珈琲飲んだりして、ピアニストが遅刻し関係者を無視しシャワーを浴びたり、内容はともかく個人主義的な人間関係が不思議なことにハイネとシューマンの世界を構築するのだから、私は本当に驚いた。
 「月に憑かれたピエロ」は更に衝撃的で現代社会の虚無が抽象的な解釈で描かれている。
 シェーファーのヌードシーンもある。
 同DVDに30分くらいのインタヴューが収録されていて、色々語っているのですが、なんというのか「女に媚びていない。」生き方が感じられて興味深い。
 カンタータもオペラもリートも素晴らしい。
 こういう人はあまりいない。
 来年日本公演がある予定で、どうにかして時間を作りたい。
 花を贈るタイプでもないし、サインが欲しいのでもないし、表現が難しいのですが愛人になりたい感じ。
 最早「私のクリスティーネ」である。