ロフォレーゼ(1920年生まれ!)マンリーコ「見よ恐ろしい火を」

 
 テノール歌手アンジェロ・ロフォレーゼをご存知でしょうか。
 1920年の生まれだから91歳なのかな?
 90歳の時つまり最近ですが、東京で歌っていたみたいで、こんなコンサートがあったと気がついていれば仕事をキャンセルしてでも聴きに行っていたように思うのだけれど、90歳で舞台に立つとは俄に信じ難い。
 しかも、ヴェルディトロヴァトーレ」からマンリーコの歌う‘見よ恐ろしい火を‘だったり、プッチーニトゥーランドット」からカラフのアリア‘誰も寝てはならぬ‘なんて若手テノールでも歌いたくないスーパーアリア。
 マンリーコのアリアは「テノール馬鹿」シリーズの最初のほうで3度も紹介した帝王カラヤンに短刀を投げつけた男、つまり20世紀最大の馬鹿フランコ・ボ二ゾッリの十八番でもある。
 アリア最後の部分はヴェルディの楽譜に書かれていないけれど、その昔どこかのテノールが勝手に高音で歌ったことでハイCが定着し、我も我もとテノール馬鹿出現のきっかけになった曲である。
 だから楽譜のまま歌わせる姿勢を崩さないムーティ盤なんか聴いたら消化不良を起こしてしまう。
 「トロヴァトーレ」の楽しみからハイCを取ったら何も残らないように私は感じる。
 このオペラはその程度の作品だと、これは独り言であるからご容赦いただきたい。
 さて、ロフォレーゼは1961年NHKが招聘した「イタリア歌劇団公演」に来日していて「カヴァレリア・ルスティカーナ」でジュリエッタ・シミオナートと共演している。
 「カヴァレリア・・」は短い作品なので、レオンカヴァルロの「道化師」と一緒に上演される機会が多い。
 61年の公演も「カヴァレリア・・」と「道化師」の組み合わせで、現在でも歴史的な名演として語られているマリオ・デル・モナコがカ二オを泣きながら歌い演じたあの「道化師」である。
 当時はチケットを購入する為に徹夜で音楽ファンが行列したそうで、その時代は私も生まれる前なので本で読み知ったのだけれど、電話予約のシステムも無かったのかもしれません。
 ただ、想像するに行列した大半の人たちはデル・モナコとシミオナートが目的でしょうし、「私の聴いたロフォレーゼは・・」なんて話は一度も聞いたことが無いので、それほど名の知れた歌手でもなかったのでしょう。
 それでも80以上の役柄を歌ってきたそうです。
 現在はデル・モナコバスティアニーニもテヴァルディも、そして絶対に死なないと思っていたシミオナートももういない。
 しかしロフォレーゼは生きている。
 生きているだけなら別に驚かないけれど、わざわざ日本に来て、やたら難しい曲を歌った現実にただ驚愕。
 これまで指導者として多くの有名な歌手を育て上げてきた。
 心してお聴きください。
 「観客よ!もっとブラヴォーと叫べ!」