カールマン「チャルダッシュの女王」

 Loreeさんの記事を見ていてオペレッタっていいなと再認識。
 カールマン「チャルダッシュの女王」について書いてみますが、一般論とは若干異なるかもしれません。
 
 登場人物
 シルヴァ 美人歌手
 エドウィン シルヴァの恋人、若い貴族
 レオポルト・マリア侯爵 エドウィンの父親
 侯爵夫人(実は若いときはマーツァリという歌姫、ご主人レオポルトはその事実を知らない。)
 シュタージ 侯爵の姪でエドウィンの従妹
 ボーニ・カンツァヌ伯爵、エドウィンの従兄弟
 そして、フェリ・バーチ
 
 以下超簡単な「あらすじ」
 シルヴァとエドウィンの恋愛を両親は反対している。
 実は、エドウィンは従妹のシュタージと婚約させられていて、つまり相手が貴族なら婚姻は成立するのだが、歌手が相手なんて身分が違うから駄目という侯爵の考え。
 シルヴァは彼に婚約者がいる事実を知りショックを受け、ブタペストからアメリカ公演に旅立つ。
 シルヴァとエドウィンの共通の友人ボーニ伯爵がシュタージに恋をし、シュタージもボーニに惹かれる。
 互いの恋人の幸せを願い行った下手な芝居が裏目に出て、逆にややこしいドタバタが起こる。
 しかし2組のカップルの気持ちに揺るぎはなく、幸せなエンディングがやってくる。
 
 なんて話で、芝居は比較的お話の前半から始まっているというか、恐らく出演者全員の心の葛藤が芝居であり、時に喜びを、時に悲しみを、なにも舞台の役者に限ったことではなくて、聴衆も私生活において芝居をしているだろうし、登場人物と同じようにハラハラしながら、そしてカールマンの音楽に酔い、束の間の幸せを得る。
 それで私が最も注目したい出演者は「フェリ・バーチ」である。
 貴族であり人格者であり、若い2組のカップルの立場を理解し優しく彼らを応援する紳士。
 フェリの立場は、ワグナー「ニュルンベルクのマイスタージンガー」で若い騎士ワルターと金細工師の一人娘エヴァの恋愛成就のために尽力を惜しまないハンス・ザックスそのもののように感じられる。
 明らかにザックスはエヴァに恋をしているのだが、誰からも尊敬を受けているマイスタージンガーの立場、そしてエヴァとの年齢差、またワルターの純粋無垢な表現に心打たれ沈黙を貫き通す。
 フェリ・バーチは若き日にマーツァリという歌姫を愛したが、家柄が違うことで結婚を反対された悲しい過去を背負っている。
 その後の人生でマーツァリ(レオポルトの妻であり、若き友人になったエドウィンの母)と再会することはなく、歌姫の幻影を追い求め生きてきた。
 フェリは旧知の間柄のエドウィンの父レオポルトと偶然出会う。
 そこに侯爵夫人ことマーツァリが現れ、フェリは彼女と数十年ぶりの奇跡的な再会を果たす。
 勿論瞬時に恋人だったことを互いに気が付くが、ここでのフェリの立ち居振る舞いが素晴らしい。
 心の動揺を抑えながら、侯爵夫人に礼儀を重んじ「わたくしは・・」と挨拶をする。
 そこでレオポルトは妻が歌手だったと知り、「息子が歌手を好きになったのも、遺伝だから仕方がない。」と言葉にし笑顔で妻を抱擁する。
 そこで若き2組の幸せを祝すエンディングがやってくる。
 私はフェリのような大人になりたいと思い続けてきたけれど、まだまだ全く駄目だな。
 喜び、悲しみ、出会い、別れ、そして人生とは、そう語りかけてくる名作。
 男ども!紳士になろうよ!
 
 動画は1985年にウィーン・フォルクスオーパーが日本公演した時のもので、場所は東京文化会館
 私はビデオで観ていて、楽しいから何度も観てテープが壊れてしまった。
 フェリがエドウィンとシルヴァを勇気付ける「ヤイ マンマ」で全曲を通し最も盛り上がり、数回にわたりアンコールが続く。
 フェリを演じたのは名優のシャンドール・ネメット。
 ダンスが凄い!
 最初がドイツ語、次にハンガリー語(当たり前ですがカールマンの音楽にハンガリー語は最高。)
 それから○○語で歌う。
 この時の最終シーンの演出は感動的で出演者全員がペアでダンスをするのだけれど、フェリだけがパートナー無しで独りステップを踏んでいた。
 ステージの奥から赤いライトが当たり、ダンサーは影絵のようにシルエットとなって浮かび上がり静かに緞帳が降りた。
 そこぬけに楽しくて笑顔になれて、でも・・・やっぱり最後は泣けるな。