「愛と哀しみのボレロ」の知られざる失敗シーン

 巨匠クロード・ルルーシュ監督の「愛と哀しみのボレロ」は、たぶん名作である。
 ロシア・フランス・ドイツ・アメリカの4ヶ国、時代に翻弄された家族の物語で、私の好きな映画である。
 しかし今回は感動だとか『愛』だとかはどうでもよくて、本来このような名作の中で起こってはならないとんでもないハプニングが存在している事実を、謹んでご紹介させていただき、独りの男の『哀しい』事故を真摯に受け止め、今後この不幸を皆様と共有しつづけたいと考えている。
 モーリス・ベジャール振り付けの『ボレロ』をジョルジュ・ドンが踊る素晴らしいラストシーン、音楽の一番盛り上がるエンディングで事故は発生した。
 土俵のようなステージ(ドンを背中に見て)右側手前のダンサーが振り付けを間違えている。
 しかも決定的で絶対的な間違いである。(どうしても文章では伝えきれないので、とにかく最後の部分を観ていただきたい。)
 人は誰でも人生で1度か2度はとんでもない間違いをするものでしょうが、そいつが映像として記録され、しかもクロード・ルルーシュが監督で、全世界に配信されて何度もリバイバルされて、今ではYOUTUBEで簡単に見られてしまう現実を背負いながら生きていかなければならない男がいるということ。
 これが本当の『愛と哀しみのボレロ』である。
 あのシーンはパリのエッフェル塔が見える巨大な空間トロカデロ広場で観客から何もかもがライヴのようで、でもルルーシュは絶対に気がついていたと思う。
 ただ、ジョルジュ・ドンに「もう1回踊ってくれるかな?」と言えなかっただけだと感じるのです。
 これは私の勘である。
 映画であっても、やり直しのできないカットは存在するのです。
 どうでもいいが、私がこの事故に気がついたのは最初に映画館で観た時で、これもある種の不幸かもしれないのは、あの男の影が当時の作品に対する全てであり、ストーリーが感動的だとか、ドンが素晴らしい等が二の次になってしまったことである。
 「トリビアの泉」に出そうかと考えたが、もし採用されたらあの番組は現地まで取材に出かける可能性もあるし、最終的にあの男を探し出すような気がするので、こういう事はブログ程度にしておきたい。
 
 一度だけ本物のジョルジュ・ドンを見たことがある。
 エイズで亡くなる少し前だと思うのだけれど、東京文化会館のロビーで葉巻吸っていた。
 かっこいい人だった。