テノール馬鹿 チェッケレのカラフ

 
 眠れない。
 だから「トゥーランドット」というわけではないが、気分的にテノール馬鹿シリーズ更新である。
 これまで何人記事にしてきたのか解らなくなってしまったのですが、素直に感じるのは本当のテノール馬鹿は数名しかいないのだなと気がついたのです。
 数名と申しましても、どうやらボニゾッリとマルティヌッチとチェッケレの3人にその資格があると確信が持てますが、実際他の歌手がそうなのか自信がないのです。(あとはジャコミー二だ。)
 そんなことで、これまで1度しか取り上げていないチェッケレに今回はスポットを当てようかなと考えた。
 トゥーランドットの主役カラフなのですが、誰もが考える「誰も寝てはならぬ」では面白みに欠けると思い、第3幕のエンディングにしてみました。
 ライバルであるボニゾッリの個性といえば、アリアのハイCだけに全てを投入する型破りな行動だけが注目され極めて短絡的ですが非常に解りやすい世界を構築した馬鹿さに集約され、マルティヌッチは録音を聴くかぎり3人の中では最も常人みたいけれど、実際にホールで体感するととんでもないパワーでボニゾッリよりは響く声だと私には感じられた。たぶん己のバランス感覚を1番強く身につけているから、決定的なシーンで愚かな失敗をしない確立が高く、聴衆は数分のアリアで魅せられてしまうのです。つまりマルティヌッチは技術が高い。
 そんなことを考えながらチェッケレの動画をこまめに確認してみると、もしかしたらこの人が1番馬鹿なのではないかななんて急に思い始めた。
 動画はカラフだけではなくカヴァラドッシやオテロや他にも色々あるのですが、どのシーンを観ても全力投球だから最後に大変な音を要求される音楽でも、あんまり先の事は考えていないのではないのかなと感想を持ったのです。
 事実「妙なる調和」や「清きアイーダ」あたりも素晴らしいのですが、最後の高音でもう少しドカンと決めてもらいたいと感じてしまうのです。
 でも最初っから全速力で山道を駆け上るように大声で歌いまくり、状況により破綻するけれど、恐ろしいことにそのまま突き進み成功する場合もある。
 動画は1979年モンテカルロでのライヴ録音で、その成功した例だと思います。
 イタリアオペラの中では長く、大変に大きな声が要求される最後の2重唱なのですが、これは余程調子が良かったのか、とんでもなく凄い歌唱。
 誰にこの暴走を止められるだ。
 「私の名前はカラフ!ティムールの息子である!」
 参りました。
 ちなみにソプラノ役は誰だ?知らない。
 オケも合唱も演出も酷い、だからどうしたテノール馬鹿にはそんなこと関係ない。