NHK音楽祭のマゼール、N響の歴史的名演を聴いた。

 結論から書くなら、おそらくN響最大の名演だったのではないだろうか。
 こんなN響聴いたことがない、と申しますか、あれはN響じゃない。
 10月29日19時開演、NНKホール、3階L10列17番にて鑑賞。
 普通N響を3階で聴いて、鳥肌が立ち音楽の波に飲み込まれるような感覚にはならないのですが、今までの常識がひっくり返りました。
 
 ベートーヴェン レオノーレ第3番
 グリーグ ピアノ協奏曲イ短調作品16 
 リスト(パガニーニ)?アリスのアンコール
 アンコール グリンカ 歌劇「ルスランとリュドミーラ」序曲
 NHK交響楽団
 ピアノ アリス・沙良・オットー
 
 春頃から「秋はマゼールが来るから聴きに行かなければ。」と、それはそれは楽しみにしていた10月だったのですが、土日の多い定期公演は仕事と重なったり、平日でもサントリー定期は買えなかったりとイライラしてしまったけれど、NHK音楽祭なる企画があったお蔭で、発売日に3千円の席を購入することができたのでした。
 今回の来日公演で一番聴きたかったのは、マゼール編曲の「指環」でしたが自分の舞台と重なってしまい、そいつを放棄するわけにもいかず、「ラヴェルが尊敬していたヨハン・シュトラウスは・・」とかトークしながら、不謹慎にも今頃渋谷はワルキューレのクライマックスかなとか考えていた。
 世間でマゼールがどのように評価されているのか気にしていないが、個人的に好きな指揮者でこれまでウィーンフィルスカラ座クリーヴランド管、フランス国立、ピッツバーグ響、ニューヨークフィルなんて数え始めたら随分沢山聴いてきたものである。
 それで途中から気がついたことがありまして、この人はラジオ中継やテレビカメラが入っていると手堅く比較的おとなしい演奏をするけれど、そうじゃない場合は何がとんでもない名演が起こる可能性が大きいということで、数回そのような現場に遭遇したことがありまして、的確な例えにもならないけれど、指揮界におけるアルゲリッチ及びボニゾルリのハイC現象とでも言ったらいいのでしょうか。ボニゾルリなんて書いても理解不能かもしれませんが(知りたい人は、書庫「テノール馬鹿」を参考にしてくれ)つまり想定外の珍現象のことをいう。
 おりしもポリーニが来日していますが、あの人は超人的なテクニシャンでホールで聴いてもCDと全く同じような演奏をする。それはそれで凄いことなのでしょうが、僕にとっては面白みに欠けるのは、人はその時の気分によって有機的な変化が欲しいと日頃から望んでいるのではないかなと思うからです。
 恐らくCDやデジタル配信の時代をポリーニは待ち望んでいたように感じられるのですが、現実問題として実社会が豊かになったアイテムの存在と人々が幸せを感じる出来事が必ずしも比例しているとはいえないように僕には感じられる。ただ10年先は分からない。男女がグラスを合わせる時間よりも、バーチャルなシステムでの次の頁により確かな幸せが待っているのかもしれない。
 
 ふと思い出したのは、かつてマゼールがフランス国立とクリーヴランドで曲芸のような演奏をし吉田秀和先生がそれを称讃した。その直ぐあとにマゼールウィーンフィルでも(上記でいう想定外)また曲芸を披露したが、そこでの吉田先生は優秀な楽団はマエストロの指示のまま素晴らしい演奏をしたと一定の評価をした上で、「痛ましさを感じた。」と言葉にし「前の楽団では感じられなかったのはなぜ?」と独特の言葉の変化球でマゼールを切り捨てた。当時学生だった僕は上野の4階席のサイドに座っていて、チャイコフスキーの5番が大音響で終わり驚くほどの大歓声が起こったと憶えているが、なんの躊躇もないように席を立ちホールから出て行かれる吉田先生の背中が忘れられない。あの時テレビカメラは入っていなかった。
 今回は国営放送局の音楽祭だからカメラや録音は勿論、FMで中継放送されていたから以前の理論なら手堅いパターンなのだろうが、巨匠のアプローチはかつて同行してきた優秀なオーケストラが意識を高め表現したであろう想定外な演奏をも超越した。
 
 グリーグは裸足のアリスで、綺麗な人だけれど個人的にあんまり好きなピアニストではなくて、ソロに入る瞬間に常に奇妙な間があって、つまり立ち上がりが遅いから音楽の流れがスムーズに感じられないのです。数回のミスタッチはご愛嬌、ライヴなのですから気にしても仕方がない。
 面白かったのは終楽章ラストの部分、アリスのタッチが弱いのかオケの音がでかいのか判りませんが、マゼールフォルテでアリスの音が消えてしまった。評論家はこの辺を指摘するかな。僕は「これこそマゼールだ」と思った。
 NHK音楽祭は普段音楽会に来ないような人たちも沢山来ているからマナーは最低で、それも覚悟していた上で聴きに行ったけれど、後ろの席で携帯のバイブがブルブルしたり!20時になった時だと思うけれどアラームが「ツーツー」と鳴ったり!隣の女性は飴を食べるし!グリーグの1楽章が終わった時に斜め前のオジサンは拍手するし!でもそれが現実。
 想定外の音楽は、チャイコフスキーの半分から先に集約されていたように感じます。
 繰り返しますが、あれはいつものN響じゃない。
 本当に爆演だった。コンマスが必死になって演奏している。普段からあのくらいやればいいのに・・・
 恐るべきマゼール
 いつも同じようなことを書きますが、実演を聴かなければ駄目だと感じました。
 実演に接するとCDが聴けなくなってきます。別物なのでしょう。
 
 
 ご出産が近い昭子嬢はこれから産休なのでしょうか。
 同級生がなかなか紹介してくれないからママになってしまうじゃないか!
 
 もう切り替えが大変ですが、これからグルベローヴァモードに入ります。
 色々あってかなり疲れてしまいました。