サー・コリン・デイビスの死

 サー・コリン・デイビスが亡くなったという。
 最近はあまり気にしない存在でしたが、自室にはCDやレコードが幾つかあって、以前は夢中に聴いていた。
 一般的にはベルリオーズストラヴィンスキー等比較的モダンな作品の録音に定評があるみたいだけれど、去年のCD交換会で「春の祭典」を入手した時に「そういえば聴かずにいたままの名盤なのかな。」と思ったのは、僕にとってC・デイビスといえばまずブルックナー7番だからである。
 遥か昔にNHKでデイビスバイエルン放送交響楽団の演奏会を放送していた。収録は東京文化会館で、やたら客席が空いている情景が映し出されていた。演奏された曲は、たしか?モーツァルトのジュピターとブルックナーの7番で、記憶が正しければアンコールはベートーヴェン7番の第4楽章だったと思う。とにかくブルックナーが10代だった僕の心に突き刺さった。この演奏が素晴らしいものだったのか、そうでもないのか、よく分からないけれど、これを境にブルックナーを抵抗なく受け入れられるようになった。
 ただ、次に来日したときには聴きに行こうと決心したのは、どうやら僕はドイツのオーケストラが好きみたいで、求める世界を発見できた喜びが大きかったのだと思う。
 その後、数回にわたり実演で鑑賞することができた。ベートーヴェンブラームス等を中心に、合計で5回聴くチャンスに恵まれた。ステージマナーの美しい英国紳士だった。
 思えばロンドン響やロイヤルオペラ、ボストンやコンセルトヘボウ等でも活躍したと知っているけれど意識して聴いたのは何故かドイツの団体ばかり。(そういえばボストン響のシベリウス2番やモーツァルトのレクイエムが部屋のどこかにある。)
 そういえばドレスデンのゼンパーオーパー内部に歴代の音楽監督や作曲家の胸像が飾ってあって、その中にデイビスがいたから「偉い人なんだ。」と感心したこともあった。
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 CDもそれなりに増えてきてたいしたコレクションでもないけれど他にも幾つかある。この中では右上のドレスデン国立の「英雄」と、左上から2番目のバイエルン放送のブラームス2番を最も多く聴いてきた。これはデイビスのCDの中で一番聴いてきたというより、今のところ同曲のベストだと感じている。世間の評価は知らないし興味も無いし、それ以前に演奏の優劣を録音もので判断しないようにしている。たぶん自宅で音楽を聴く場合は極力精神的に害のないものを選んでいる。
 ちなみにブラームス4曲それぞれのお気に入りは、2番はデイビスバイエルン放送、3番はシューリヒト&南西ドイツ放送バーデンバーデン、4番はクライバーウィーンフィルの非正規盤、或いはバルビローリ&ハレ管なのですが、1番はなんだかわからないというか、近頃はどうでもいい気分。
 ああ、これで全員死んだ。(シューリヒトやバルビローリは最初から死んでいた。)
 好きではない演奏だが「ローエングリン」なんてもある。綺麗な録音なのだけれど臨場感が希薄というか遠くの方で鳴っている雰囲気。なんとなくカラヤンの演奏に似ているような気がしている。
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 ある日ブルックナーの演奏が忘れられずに、オルフェオで売られていた第7番を購入した。
 「素晴らしく感じたピュアな心が幻聴だったらどうしよう。」と少しだけ不安な気分でしたが「これは素晴らしい!」と満足し、ゆっくり鑑賞すると、その頃に起こった嬉しかったことや思い出したくもない不幸な出来事が記憶の底から浮き上がってくる。プルーストの香りじゃないけれど、音が記憶を蘇らせることがあるのだな。
 それで思い出しましたが、先日取引先の社員さんが退職してその送別会に列席したら、音響会社の男性がある若い女性の名前を僕の耳元で囁きながら「○○さん、いい匂いがするんですけれど・・なんというかお母さんみたいな匂い。」こいつはいったいなにを考えているのかと思いながら「いい匂いまでは良いけれど、お母さんなんて彼女に言ったら殴られるぞ。」と忠告した。
 それでブルックナー7番なのですが、以下のような表記。
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 音楽好きなら気がつくと思いますが、第2楽章がスケルツォで第3楽章がアダージョ。普通とさかさまになっているのです。確かアダージョが先に作られたと本で読んだ記憶があるのですが、だからといって一般的ではないからオルフェオの技術者が間違えてCD化したのではと疑ってしまった。ところが調べてみたら、この順番がデイビス流だそうで、覚えてもいないけれど上野で演奏した時も上記の構成だったそうです。
 聴いてみての感想ですが、僕にはなんの違和感もないと申しますか、もしかしたらこっちの方が好きかもしれないくらいで、デイビスブルックナーを実演で聴けなかった事実が、非常に大きな幸いを取り逃がしたような気持ちになってしまった。
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 深夜自室の電気を消して追悼の音楽。
 英雄の第2楽章と、ブルックナーアダージョ
 合掌。