アイスコーヒーとマスネ「ヴェルテル」

 基本的にコーヒー愛好家はホットなのでしょうが、こう暑い日が続くと冷たくして飲みたくなる。
 そこで自宅でアイスを淹れてみようという気持ちになり、仕事帰りに寄った喫茶「神田伯剌西爾」で「仏蘭西ブレンド」を200g購入した。
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 こいつは濃い焙煎で、もちろんパンチのある苦味が特徴的だからアイスでも美味しいかもしれないと思っていた。本当は水出しで飲みたいけれど器具が高額。(しっかりしたものだと安くてもスカラ座S席2枚分くらい)実はペットボトルなんかで工夫して自分で作れないものかなと考えている。
 とにかく今自宅でできる最大限の努力。近所のコンビニでわざわざミネラルウォーターと氷を調達して、ミルの刃をあら引きに設定、豆の量は通常の約4倍だから冷静でいられないくらい贅沢な状況。普段温かいコーヒーを淹れる場合、お湯の温度は85℃~90℃程度だけれど、今回は更に低めに設定して、豆が膨らまないように内部のガスを抜くようにポタポタと一滴づつ注いでみる。汗をかきながら正直かなり面倒くさかったけれどどうにか完成。
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 真っ黒な豆から真っ黒な液体を抽出したのに、グラスの中ではワインのように赤く見える。
 ミネラルウォーターといい氷の効果有り。「美味しい!」錯覚かもしれないが、少しだけ「銀座らんぶる」に近づけたような気分。
 コーヒーにはやはり音楽。「ヴェルテル」DVDを鑑賞した。
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 2005年ウィーン国立歌劇場のプロダクションだから随分前のもの。最近の気分がゲーテだったので観てみようかなとディスクユニオンで入手しました。初めてマスネを購入した。何故初めてかというと、それはマスネだからだけれど、ヴェルテル(アルバレス) アルベール(エレート) シャルロット(ガランチャ) 指揮がフィリップ・ジョルダン(素晴らしい!) で、演出がアンドレイ・セルバンですから、現在望みうる最高の組み合わせではないでしょうか。
 暑いので、細々感想を書く気分ではないから端折りますが、概ね好ましく感じられた。ガランチャは歌も上手で美しい人だから見とれてしまったし、アルバレスはこの日調子が良かったみたいで聴き応え充分。それにエレートは今最高のバリトンの一人。でも歩き方と背中の角度に特徴のある人で「ああ、エレートだ。」と思うと同時に、時々ベックメッサーが頭をよぎる。
 演出に関してはゲーテの時代のそれではなく現代に近い設定で、主人公の狂える熱情というより出演者個々のリアルな心情葛藤が主軸になっている。その考えは素晴らしいと思う。
 つまり本の「若きヴェルテルの悩み」とは若干趣が異なるかもしれないけれど、僕が詩人だったとして仮に婚約者のいる女性に心奪われたと考えると(自殺はしないけれど)セルバンと同じような方向性の演出を試みる可能性はあるように感じた。でも、なんとなく物足りなさが付き纏うから、もっと生々しく過激でドロドロした世界にアプローチしたくなる。ようはこの舞台綺麗過ぎる。しかしウィーンだからこんなもんでしょうか。
 マスネはバイロイトで「パルジファル」鑑賞した後に「僕のヴェルテルを燃やしてしまいたい。」と言葉にしたそうです。「そんなことないです。」とも言えないのは、ワーグナーはあまりに巨大な壁、同時代人の不幸としか思えない。燃やさなかったから観れる我々は幸せです。