「オーケストラがやって来たが帰って来た」他諸々昨日感じたこと

 年末に友人の演奏会があるけれど、聴きにいけない可能性が大きく(教会でフランクのソナタ他)昨夜のが今年最後の演奏会になりそう。
 最寄のバス停から鎌倉駅へ進む。トンネルの向こうにささやかな喜びに満ちた未来がある。
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 ♪「オーケストラがやって来たが帰って来た」
 J・シュトラウス2世 常動曲・・番組のテーマソングだったな。
 山本直純 シンフォニック・バラード
 ポッパー 山本直純編曲 ハンガリアン・ラプソディ 
 休憩時間20分
 フォスター 山本直純編曲 夢路より 金髪のジェニー
 山本直純 阪田寛夫作詞 児童合唱と管弦楽のための組曲「えんそく」
 指揮 井上道義  チェロ 宮田大  司会 マリ・クリスティーヌ 重延浩テレビマンユニオンの会長)
 残念ながら小澤さんはキャンセル
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 錦糸町までは一回も乗り換えないで行けるから楽。文芸春秋1月号を読みながら車中の人になった。最初のうちは終戦の日天皇皇后両陛下や、東電社長のインタビューを眺めていたけれど、新川崎辺りから村上春樹氏新作短編「イエスタデイ」を読み始め、ちょうど錦糸町到着時にドラマは完結した。これは前作の「女のいない男たち」のシリーズ第2弾。読後の素直な感想。好ましい。
 【関西出身の早稲田の学生が友情を育み、女性と出会い、最後は16年後の彼等の姿が投影される。】
 取り戻すことのできない時間の流れはせつないもんで、実際にはややこしい人間関係にうんざりしていたとしても、記憶はいつでも美しさに彩られる。
 例えば、アルゲリッチの全力投球は時々今を越えてほんの少し先の未来を予見させるけれど、デビューまもないアヴデーエワがあの若さにもかかわらず、消えゆくようにスローに旋律を歌わせるショパンの第1楽章だったと憶えている。ちょっと飛躍しすぎだけれど、わかる人だけわかれば幸甚です。
 つまり、私小説のような雰囲気。だから「イエスタデイ」なのかな。
 実は最近私小説やらエッセイについて考えることが多くて、村上さんの場合は趣が異なるけれど、幾つかの連載を抱えている作家は、どうやら思考が磨耗してしまうのか、私事を切り出すパターンが多いような気がしてならない。生意気な言い方だけれど、それは想像力の欠如であり、誰だって自分のことならいくらでも書けるのではないかしらんと思う。お前は私小説が嫌いなのか?→大いなる矛盾、答えは好きである。
 いずれにしてもオーケストラは帰って来た。パンフを開けばあいうえお作文。
 うーん・・またしても共時性を獲得。どうしてこういうことがおきるのかな。先に書いて良かった。人生って面白い。でもこの文章はとても詩的とはいえない。
 なんでもいい、既に昨日は一昨日の明日に変化しているのだから。
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 入口でホールの関係者に
 「お客様のお席は狭くて座りにくいので、ご希望でしたら他のお席をご用意させていただきますが・・」
 「?」
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 客席に入る手前に書かれていた小澤さんのお詫びのお言葉。随分と汚い字だなと思っていたら、後から「こんばんは!」振り返ると、ご本人曰くマシュマロ夫人こと笑顔のとむさん。今回のチケットは彼女の友人が先行予約で獲得してくださったS席で(僕だってS席を買うことがあるのです。)単純にマエストロ小澤を近くで見たいだけの理由に賛同した1階席1列目20番。つまりど真ん中。こりゃ凄い。
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 隅田に関しては3階席の住人だから知らなかったのですが、ステージが低いので想像していたより居心地が良かった。ホールの人が「座りにくい」と言った理由は目の前に1メートル四方程度の突貫工事的指揮台が客席にはみ出ていて、普通に座っているだけで膝が指揮台にぶつかる○○航空の格安エコノミー状態だったことでした。
 「えんそく」のときに成城の子供たちがオケの前で歌う設定で、そのときはマエストロ井上が触れる距離。なるほどそういう意味だったのかだけれど、狭くて近すぎても絶対にここで聴きたい。
 MCのがトークをはじめる前後から、なんだかどきどきしてしまったのは間違いなく職業病で、お客の立場なのに開演前の舞台袖の緊張したあの感じが勝手に憑依。原稿の記憶が吹っ飛んだ悪夢を思い出した。
 しかし驚いたのはこの有名番組が終了して30年経過している事実を知ったことで、明に対して暗のテレ朝の番組が何故続いているのか、まことに不可思議である。
 僕が絶対に一生着ないであろう赤いタキシードの直純さんが「オーケストラがやって来た!」と大きな声で歌っていた強烈な姿に対して、暗黒の中スポットで照らされた黛さんが「題名の無い音楽会、最初にお聴きいただくのは、ゾルタン・コダーイの・・」 日曜日の朝からコダーイや涅槃交響曲を聴いて喜ぶ人なんか日本中探しても誰もいないでしょうから、あれはあれで恐ろしい番組だった。つまりなんだ?佐渡裕よ、あなたはどこにいく・・
 
 番組終了後に生まれたという宮田大さんのハンガリアン・ラプソディには吃驚した。あいつは凄い!斉藤秀雄が使用していたチェロの音色もそうだけれど、近くで聴く場合温度が高いと痛感したのは、はっきりと聞こえるブレスや、マエストロとのアイコンタクトが音楽を作り上げると実感できるし、技術と情熱は勿論、チェロの「f」文字が僕らの耳と平行の位置だったことも幸いした。至近距離約3メートル。「アイコンタクト」って、目とコンチェルトとタクトということなのかなと思ってしまいました。
 休憩後に昔の番組の一部がスクリーンに映し出され、アイザック・スターンが「カラタチの花」初見で演奏している映像。ヴァイオリンなのに言葉が感じられる音楽。
 関係ないが以前青森の友人を訪ねたときに右折しようと車を停止させていたら、後方から別の車に追突されたことがあった。(ムチウチになってしまった)視界良好な田舎の道で止まっている車に突っ込んでくる。0対100でこちらの勝ち。容疑者は種市○べエという農家のオヤジで、翌日病院と警察に出かけて「あいつを死刑にしてください。」思えばあのジジイはアイザック・スターンと同い年だった。
 
 一番心打たれたのは子供たちとの共演。「えんそく」は素晴らしい作品。真ん中だからステレオ効果。
 井上さんは子供たちと同じ衣装に着替えて可愛いキャップをかぶって登場。笑いを誘う。(もし下野さんだったら、半ズボンに黄色い帽子でランドセルを背負わせたい奇怪な欲求がある。)
 それにしても指揮者が近い・・
 小澤さんが成城学園で合唱の練習していたそうですが、寒いのに自転車で出かけて、子供の風邪をうつされた可能性が高いとか。指揮者から左4番目前列のソプラノボーイが鼻をすすって数回咳をしたから、彼かな?と想像した。僕は何回代役指揮者を聴いているのか、もう数え切れない。「1月のベートーヴェン期待しています。ご自愛くださいませ。」
 アンコール後、井上道義さんは僕らを見下ろして「狭い席できゅうくつで悪かったね。ごめんね!」とフレンドリーに語りかけてきた。僕は思わず「ブラボー!」と叫んだいた。今年最初で最後のブラボー発信は至近距離の井上道義氏に捧げられたが、お世辞でもなんでもなく心から感動した。
 脱力した気持ちと遊び心で出かけた自分を恥じた。マエストロが狭い事実を気にかけてくれたということは、ホールの係員もマエストロ小澤含めホスピタリティを共有していることを意味する。これだけで新日本フィルは忘れがたい。ますます渋谷が遠ざかる。
 ホールを出たとき、なんともいえない爽やかな余韻を感じている自分を発見した。マーラー7番とえらい違い。
 子供のときに近くのホールで「オーケストラがやって来た」公演があって聴きにいったことがあった。きっと同じような気持ちで、また本物の音楽を聴きたいと感じていた。あの時は当時の誰だったか友達と一緒で、でもよく考えてみたら、喜びや楽しみを共有することはなく孤独な日常を耐えるしか方法がなかったと思い出した。それは友人が「クラシックなんてつまらない」発言というより、自分から周囲を遠ざけていた暗い性格に由来していたと思う。
 成城の初等学校合唱部はNHK全国学校音楽コンクールで優勝した組織。つまり、とても上手い。ホールには応援にかけつけたお母さんがいて、美しき教育の形を誇らしく感じていることでしょう。ただ、子供の人間関係はわりと残酷で、周囲の大人が考えられない発想が次々と出現し、理想という名の教育に対し大きなストレスを抱え込むもの。繊細なのです。僕はなんとなくハーモニーの正確さに社会の歪みを見出した。これは大人の業である。欲によって意思を形成し、意思のよって業を獲得する。誤解されると困るけれど否定ではない。ほんの少し(1グラムでいい)子供よりのアプローチを作ってあげられないものかなと勝手に思っただけ。
 小澤さんも井上さんも意志の強さと努力で実現したポジション。普通の人ならチャンスがあれば誰だって上からの景色を見たいはずです。しかし2人のマエストロが素晴らしいのは子供たちと同じ目線で成功を引き寄せるところ。しかし周囲がどう見るかは別。そう考えると底辺の拡張だけに尽力した山本直純さんは不思議な人だったと改めて思った。
 その後喜びを分ち合う相手マシュマロ嬢と、ハンバーグステーキ。
 よいお年を!
 
 「イエスタデイ」に<厳しい冬は人間の貴重な年輪となる>のような件があった。僕にはそこまで大袈裟に感化されてはいないように思うのだけれど、いつからか時の流れが速度を増して、年輪というより、バームクーヘンの重なりを外側から一枚ずつ削ぎ落とす神経質な作業のような感覚があって、いつの日か食材は無くなるけれど、健やかで穏やかな気持ちで芸術を感受できれば幸福でいられるように思う。
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 千葉方面で電車がノロノロしているとかで、午前様。
 珍しく3匹が固まっていた。黒くてなんだかわからない。
 (左からピート、チビ、アンバー)
 昨日は一昨日の明日になった。みんな少しでも長く元気でありますように。
 
 
 次回のブログは演奏会年間ランキング発表でございます。