琥珀色のマジック

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 コンディションそこそこ良好だったので、人だらけの街に出かけた。昨日のこと。
 久しぶりのトンカツをさくりといただいてから目的地に向かった。
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 たかが一杯を求めて2時間近くかけてやってきたのはそれなりの理由があって、この老舗珈琲店が今月23日で閉店してしまうから、もう一度飲んでおきたかったのです。
 店の前から馴染みの焙煎氏に「大坊にきた」とメール送信、直ぐに「おお!M春樹に会えるかもよ。」と返信されてきた。
 誰かが言った「世界一のドリップ珈琲。」 僕は思う世界一とか比較対象はどうでもいい。ただ好きな店。
 この店に初めて入ったのは、たぶん20年くらい前。なんの用事だか忘れたけれど、途中から雪が降ってきてしまい交通網が狂いだす前に帰ろうと考えていたが、香りにつられて怪しい雰囲気の階段を上がって扉を開けた。 「いらっしゃいませ。」と眼鏡の男性が迎え入れてくれたのだった。
 カウンター席に座って、なにを注文したのかな。たぶん濃いブレンド珈琲だったと思うけれど、ジャズらしき音楽が静かに流れる店内、職人は真剣な表情でネルドリップを操ってくれた。
 「寒くなってきましたね。」・「雪が降ってきました。」・「そうですか。」・「ごちそうさまでした。」・「ありがとうございました。」だけの会話があった。
 その後、この街に来るたびにカウンター席に座るようになったのだけれど、いつも用事を済ませてからにしていたのは、なんとなく時間の感覚が外と異なるように感じられて、浦島太郎じゃないけれど1分が50秒くらいに収縮しているもんだから、社会復帰の帳尻あわせに努力が必要になってしまう。
 そういえば、約10秒の隙間の積み重ねのなかで一人の女性との出会いがあったようななかったような、全ては琥珀色のマジックで気のせいかもしれない。
 
 
 ある本に紹介されていた。最初からマスコミとは無関係な印象だから、これは大坊さんにとって名誉なことなのか面倒な手続きなのかよくわからない。撮影さている意識がないような脱力した感じがいい。
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 僕は、はなっから雑誌や食べログみたいなものを信用していない。自分の舌だけが頼り。
 
 最後の一杯は30g100ccの濃いブレンド。混雑していてカウンターには座れなかったけれど、ドリップに集中した表情は20年前と同じ。違うのは全部白髪になったことでしょうか。
 奥のエアコン近くの席で味と香りを記憶に刻んでいたら、カーテン越しに店主が顔を出して
 「寒くなってきましたね。」・「美味しいです。」・「ごゆっくりどうぞ。」・「ありがとうございます。」
 そしてカーテンの奥からカシャカシャと(ザルかな?)ハンドピックの音が聞こえてきた。
 ちなみに春樹はいなかった。
 
 
 今日12月19日は山路芳久さんの命日。
 先程、「いつも、ありがとうな!」とお母様とお姉さまから電話を頂戴した。
 力不足の己を恥じる。