水戸室内管弦楽団第89回定期演奏会

 1月19日14時~水戸室内管弦楽団 第89回定期演奏会吉田秀和生誕100年記念コンサート・4)
 メンデルスゾーン「フィンガルの洞窟」 Op26 同交響曲第4番 in A major Op.90「イタリア」 指揮:ナタリー・シュトゥッツマン /ベートーヴェン交響曲第4番 in B flat major Op.60 指揮:小澤征爾
 
 前日の仕事後帰宅せずにそのまま水戸に向かったのは、都内→帰宅→水戸→帰宅という手続きにうんざりして、都内→水戸→帰宅が楽と思ったから。ホテルも安いし、日曜の午前中に見に行きたい場所もあったので効率的な時間購入した気分。チェックインしたのは21時頃でした。
 空腹だったのでキーを預けて駅周辺を歩いたけれど、記憶と勝手が違っていて入りたいと思える店がどこにもなくてがっかりした。例えば汚い暖簾に「あんこう鍋」と書かれていても、独りで鍋というのもいかがなものか、美味しそうな焼肉店もあったけれどイメージとは異なる。気が利いた焼き鳥屋さんを求めていたのに、どこにも無い。仕方がないからラーメンにしようと妥協気分で寒空の下ベンチに腰掛け食べログ検索。ようやくクチコミの多いお店発見の喜びも束の間、誰もいないカウンター内で若い女性がニヤニヤしながらスマホいじっていて、外看板に「カレー始めました」って、水戸!いい加減にしろ!看板を破壊してやろうと考えたくらい。数分後僕は松屋の自販機にコインを投入していた。「ライス大盛り!」
 
 松屋を出て見上げれば豪華ホテルのような立派な駅・・・立派すぎる・・・いや逆に街が沈んでいる。
 人が少ない・・時々ボブマリーみたいな髪型のヤンキーが奇声を発しながらスケボ。
 
 「水戸」思い出深い街。
 ① 中学時代に卓球部に所属していた僕は神奈川県代表チームの主将で関東大会が水戸で行われた。優勝する予定でいたのに決勝戦で東京代表に負けた。しかも、自分の責任で負けた。
 ② 10代最後の秋、何故か壁画制作のアルバイト。公営の温水プール入口にある全長25メートルはあるガラスモザイク製の巨大壁画を作った経験がある。主に下働きだったけれど自分が担当した箇所を記憶しているのかな?(当時は車移動だったから場所の記憶が曖昧。)
 日曜日マチネを購入した理由は、あれ以来見ていない②の壁画を見に行きたいと考えたからだった。(①は嫌な思い出だからどうでもいい。)携帯で検索してみたら、駅前の6番バス停から植物公園行きに乗れば行けると分かった。松屋アフターでバス時刻を確認したら、一日三本だけの超ローカル地域と判明。ホテルに戻り支配人に調べてもらったら「タクシーで片道2000円じゃ無理だと思います。」だから諦めた。そのうち見に行くこともあるでしょう。
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 水戸光圀は芸術館を見つめている。駅から遠い場所なのだけれど天気が良かったので塔を目指して歩いた。
 昨夜と異なり行き交う人も多い。ここは昼間の街なのだなと思った。書き忘れていたが、僕にとって初芸術館である。
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 芸術館の庭は広い芝生で、子供たちがボール遊びをしていたり犬の散歩だったり、つまり美術や音楽目的と異なる地域の人々の憩いの場になっていて非常に好ましい。鎌倉芸術館とえらい違いである。だいたい吉田先生が住んでいたにもかかわらず、追悼式を欠席した鎌倉市長は芸術を理解しないどころかそうとうな馬鹿だと思っている。再選された理由がわからない。
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 昨年5巻で完結したCD書籍「名曲のたのしみ」を発売されるたびに購入していて、4巻辺りの時だったと記憶しているが、鎌倉駅の東口にある本屋(つまり吉田先生のご自宅から一番近くにある本屋)で「名曲のたのしみは、どこにおいてありますか?先週発売になったはずですが。」と店員に聞いたら、きょとんとした表情で「お調べしますので、もう一度題名を教えてください。」それで数分後何を言い出すかと思いきや「前回から取り寄せていないのですが、ご注文されますか?」・・これは虚構にあらず驚くべき現実。「今後、ここでは二度と買わない。」と啖呵を切って店を出た。
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 Pセンター。凄い席である。
 正面からの映像を見ると中央に大きな柱見えて、あの近辺の席だと視覚的に邪魔だろうと想像していたのですが、座ってみればあんまり柱の存在が気にならない。寧ろ足の置場が窮屈で鞄をクロークに預ければよかったと反省した。
 期待していなかったシュトゥッツマンの指揮するメンデルスゾーン!素晴らしかった。
 どんな指揮か?近々テレビでも放送されるでしょうし誰かしら書くでしょうが、とても小澤的な棒の振り方をすると最初に気がついた。師匠の教えに忠実なのでしょう。丁寧で表情が豊か。そして無理難題を奏者の要求しない流れを構築するのは指揮を受ける立場を理解できる境遇に由来すると思われた。
 これまで「フィンガルの洞窟」を真面目に聴いたことがなかったように思うのだけれど、ロ短調の主題で鳥肌が立ち、途中のクラリネットのソロで不覚にも涙が出そうになってしまった。誰が吹いているのかなと身をのり出して真下を覘いてみたらリカルド・モラレスらしき抜けかかった薄い頭皮。テレビで聴いたラプソディ・イン・ブルーの冒頭もモラレスだったけれど、恐らく音符で己の順番が訪れる前から頭の中で音楽が鳴っていて、聴き手や団員だけじゃない、もしかしたら作曲家までも想像していなかった独創性を提示する。でも目立ちたくてそうしているのではない。全ては調和の中で解決する。それはトーンドゥルのオーボエも、工藤さんのフルートも、ホルンもトランペットにしても皆が同じ。気がついたのは、それらの提示に対して、若きヴァイオリン奏者島田さんの左耳がピクリと動いたこと。聴きながら感じながら与えられた役割を果たす。懸命に生きる資格を得ている彼女を羨ましく思った。
 「イタリア」 良かった。僕は以前からメンデルスゾーンシューマン交響曲で聴くとき、編成の大きなスタイルに違和感を覚えていた。そのストレスを開放してくれたのはPヤルヴィ&ブレーメンの演奏会だったのだけれど、自分がさっさと水戸に聴きに来ていれば何年も早く感じることができていたのかもしれない。
 関係ない話だけれど、終楽章の弦のうねるようなサウンドを聴いていたら、どういうわけか「死と乙女」を思い出した。華やいだ音楽のほんの微かな影の部分なのかどうか。それだけでもシュトゥッツマンは忘れがたい。
 唯一ネガティヴな感想。彼女は背が高いから指揮台がいらないんじゃないかと思った。
 休憩時間を挟んでいよいよベートーヴェン
 マエストロ小澤征爾が楽団員と共に登場。
 痩せて小さくなったのかもしれませんが、存在がでかい!こればっかりは劇場に来なければ理解していただけないけれど、明らかにホールの空気が変化したのだから、精神は肉体を超越することを証明。
 序奏の緊張感は尋常ではない。咳払いどころか呼吸もできない感覚。
 全体的には極端にまで縦の線が強調され、4番てこんなに激しかったかな?
 一体感のある奏者のブレス、譜捲りの音、弦楽器のガサガサ軋む音。マエストロの「ガァー!」と叫ぶ声。仮に副題があるとしたら「いのち」とでも名づけたくなるような迫力。ちょいとばかり恐ろしい世界。ゾクゾクした。
 マエストロの周囲を、豊嶋さん竹澤さん安芸さん田中さん店村さん川本さん上村さん原田さん達がぐるりと取り囲み、本気の表情で格闘している(凄すぎる)・・これはCDやDVDにしたとしても伝わらないかもしれない。
 終演後、達人ばかりの管楽器奏者達は「イエー!」とか言いながらハイタッチしていた。
 松本もいいけれど、水戸は演奏家との距離が近いから面白い。
 
 意識高揚の反面やけに冷静なもう独りの自分もいて、近くだからそう見えたのかもしれないけれど、ティンパニのアルトマンが全体のバランスを掌握しながら、数回にわたりマエストロを指揮しているように感じられた。
 品のないブラボー屋がいたけれど、まあ仕方がないかな。
 しかしチケット買うと必ず小澤キャンセルだったけれど、数打てば当たると学習した。
 チャンスがある限り聴きたいものです。
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 吉田先生に感謝。
 これから鎌倉まで帰ります。あ~遠いな。
 それでも演奏会の余韻を少しでも長く感じたく、水戸駅まで歩いたのでした。