言葉は音楽

 なんでも鑑定団を見ていたらラグーザ玉の油彩画が出てきた。依頼者は義父の遺品という絵画を前に「本物なら売り払い結婚式の費用にあてたい」と言葉にしていて、正確な鑑定額は覚えていないけれど、列席者からの祝儀を補てんするとしたら充分すぎる内容だったと思う。作品として個人的にはあんまり好きなものではなかったけれど、以前ラグーザ玉の人生を何かの雑誌で興味深く読んだことがあって、結婚しイタリア国籍となった画家は人生の大半を異国で過ごし、ラグーザの死後郷愁の念から晩年帰国した。音楽界なら人生観諸事情は異なれど原智恵子や諏訪根自子、山路芳久を思い出す。
 番組終了後「ガイアの夜明け」が始まる前にいつもテレビを消すけれど、番組冒頭ナレーションの声に違和感をおぼえたのは、蟹江敬三さんが亡くなられたんだと初めて意識したから。僕は蟹江さんの俳優としての演技は勿論、ナレーションというか声に魅力を感じていた。最近ではテレ朝水谷豊さん主演の「相棒」再放送で犯人役は銀座のバーテンダー。言葉のやりとりよりも無音の時間が長く、完成したカクテルを丁寧にグラスに注ぎ「お待たせいたしました。」と主人公に提供する。その一言の台詞と何気ない所作にドキリとした。編集の力に依存する部分も大きいだろうが、重みのある言葉は場の空気を変えてしまう力があって、こればかりは努力経験の積み重ねであり熟練熟成の賜物、犯人の私生活や虚構の歴史等、直接的に表現されていない部分まではっきりと見えてくる。与えられた環境の中で自分の言葉を発信する大切さが答えと感じる。どこかで聞いたドラマの前後関係とは無縁で演技と呼んで良いのやら理解できない台詞は確か?「倍返しだ!」
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 演奏会から離れると本を読みたくなる。
 「響きと鏡」を久しぶりに取り出してパラパラ眺めていたら、「本やの話」というタイトルのエッセイにぶつかった。
 吉田秀和は店員の質に言及されている。そういえば最近同じようなことに遭遇するように思えてならないのは、たまたま在庫がないのは仕方がないけれど、以前ブログに書いたかな?鎌倉駅東口にある書店で「名曲のたのしみ」を探していて店員に尋ねたら「もう一度著者と出版社を教えてください。ヨシダヒデカズですか?」と返してきた。他には横浜の紀伊国屋書店で原稿用紙の場所を質問したら、困惑の表情を浮かべ「ここは本屋ですけれど、文房具はあちらのお店です。」あの時は本当に驚いた。
 ただ全ての書店がそうでもないのは当り前で、丸善、神保町なら三省堂やグランデ、【新宿の】紀ノ国屋、小さくたって鎌倉西口前のお店は痒い部分に手が届く応対をしてくださるからその度に嬉しくなる。
 以前から気にいらないと思っているのは「本屋大賞」なのだけれど、マスコミの取り上げ方が尋常でないことを鑑み、どれだけの影響力を世に発信しているのやら、本屋がなにか勘違いしているように思えてならない。今回の「村上海賊・・」は良い本なのかもしれないけれど、本屋大賞は過去にリリー・フランキーを選出していて(フランキーさん好きだけれど)売れるから名作とは限らないもんで、曖昧で消化不良な社会の有様を迎合する一部の店員さんが、さも権威が在るかのように振舞うのは、たぶん何処かの民主主義国家のア○デミー賞の真似でもしたいんじゃないの。過度な宣伝は否定しないけれど、本屋さんに言いたいのは「現場で働く店員の底上げ。」それと「お願いだからほっておいてくれ。」である。
 伊集院静さんの「許す力」は、帯に「あなたはその人を許すことができますか?」と記されているので、文士も寛容になられたのかと思いきや、本を開いて最初のタイトルが「許さなくていい」だから思わず笑ってしまった。内容については言及したくなが、誰もが遭遇する許す許さないという感情は非常に難しいことで、嘘をつかれたことに傷つき喧嘩したり程度なら時間が解決するのかもしれないけれど、家族が誰かに殺されたりだったら普通は不可能で、まして憎しみのあまり相手を攻撃したりは最悪。攻撃は更なる攻撃を生むだけ。だからといって我慢する必要もないと思う。ストレスは身体に悪い。学んだことは大きい。普段考えでいた「許」という語を脳の片隅に意識しながら自分の言葉で行動しようと思えたこと。
 アマゾンで買った「舞台芸術」の三月号は京都造形大舞台芸術センターの編集で、先月受講したフェードル演出を企画した同大学教授同舞台芸術センター所長渡邉守章氏(早稲田にはお仕事の関係で来館されなかった。)のシェロー追悼文が書かれているから注文した。ただ最も興味深い記事は渡邉教授と元京大総長で現在京都造形大学学長尾池和夫氏の対談「リズムと耳を育むこと」で、俳句の国際化を話題にされたり、舞台演劇は耳を澄ませて「聴く」重要性。(僕は聴きながら観ていた。クライバーなんか完全に観ていた。)T・Sエリオット「荒地」に季節感を表現していることにも言及。
 口伝えによる言語形成は時代と共に変容するものでしょうが、時に無駄を削がれ或いは新たなリズムが加わり継承されてきたのかもしれない。それにしても自分が無知であると認識。
 結論「言葉は音楽」
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 ところで「濃厚ギリシャヨーグルト」が美味しい。
 熟成のすすんだチーズのよう。