ルネ・コロ 第2夜「詩人の恋」他

 
 7月3日(木)19時開演 紀尾井ホール  ルネ・コロ(T) ミハエル・ベルダー(PF)
 
 シューベルト                      
 野ばらD.257(詩:ゲーテ)  
 さすらい人の夜歌D.768(詩:ゲーテ) 
 セレナード(詩:レルシュタープ) ~歌曲集「白鳥の歌」D.957より  
 夕映えのなかにD.799 (詩:ラッペ) 
 楽に寄すD.547 (詩:ショーバー) 
 
 R.シュトラウス                   
 君は心の冠Op.21の2(詩:ダーン)
 朝Op.27-4(詩:マッケイ)
 ああ、不幸な男だこの僕はOp.21-4(詩:ダーン)
 夜Op.10-3(詩:ギルム)
 愛を抱きOp.32-1(詩:ヘンケル)
 万霊節Op.10-8(詩:ギルム) 
 献身Op.10-1(詩:ギルム) 
 
 シューマン                     
 詩人の恋 全曲Op.48(詩:ハイネ)                             
 
 
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                                                           (祝祭への道)
 改めてプログラムを開いてみて、なんとなくしっくりこない箇所あって、大した話じゃないけれど、もしかしたらD957とD799の順番が逆だったような気がする。いずれにしても大好きな作品ばかり。
 「冬の旅」ではあまり考えなかったのですが、聴きにくるお客さんが普段のオケなんかのときと比べて、静かに聴き入る種類のように思われた。正確には「1階席レフト前から4番目通路側のオヤジ!お前だけ拍手やブラボーが早いんだよ!」と殴ってやりたい衝動を抑えつつ「梅雨空に 我は大人と 楽に寄す」
 とか思いながら、かつてコロのワグナーに狂喜した人々もドイツ詩の機微に人生を投影させ、様々な人間模様が交錯。色々な過去を乗り越え皆が今の自分に到達したのです。例えば、ロンドンからドレスデンまで追いかけ続けたある女性MMさんが言った「私のコロ様」がミュンヘンのフィーヤ・ヤレス・ツァイテンのロビーかどこかで、「あんなタンホイザー演出やってられない。」と名歌手の愚痴を聞いたとか思い出してしまった。初日は会わなかったな。
 コロの調子は明らかに今回の方が良かった。特に前半がそうだったと僕には感じられたのは、同じシューベルトでも無理な緊張感のない歌が多かったからかもしれないが、高音の箇所でも裏声やファルセット等で誤魔化すのではなく背中からまわすように持ち上げて響く声を獲得していた。Uさんも休憩時間に「それは感じた。というか今日のほうが絶対に良いと思う。」
 しかし実情として、これは僕の話なのだけれど愚かなことにシューベルトだけで目頭が熱くなり、細かく説明するなら「さすらい人」から脳の機能が狂い始め、An die Musikで涙腺が崩壊した。
 どう考えてもこれは反則技で余程のヘンテコな歌唱でなければ感動する仕組くみ。でもシューベルト以上の事態はR・シュトラウスでやってくるのはプログラムを見れば明白で「万霊節」「献身」の続き技に拍手もできない状況に陥った。そこをRさんに目撃された(恥)仕方がない。※しかしながら、Morgenから「不幸な男・・」へは飛躍しすぎで意識が追いつかず。冷静に思い返すと[Danke]という語に僕は弱い。      

 
 休憩時間後は「詩人の恋」
 正直に書こう。「歌い間違いの多いこと!」この現象は昔のコロのまんまだから、可笑しくなってしまった。
 一番最初の五月の件、同じ旋律がリフレインされるとき、出だしの歌詞と混乱したみたいで、とある単語の途中から無理やり別の単語に軌道修正したもんだから、ほんの一瞬人類の言語から逸脱した。そのとき市の書記官に扮したのヘルマン・プライがピアノの向こう側から顔だけ出したような幻覚に襲われた。
 後から友人たちに確認したら、気がついていない人が多かったから、もしかしたら僕の聴き間違えなのかもしれないけれど、覚えているだけで10箇所以上はあった。これは批判ではなく、若い時代からコロは堂々と歌詞を間違える人で、常に完璧を目指すも楽しく優しい人柄とリンクして、ワグナーにしてもリートでも身近な存在に感じさせてくれたのです。それを思い出した。2曲目の「Aus meinen・・」はテンポが速くて当惑したが好ましく感じられた。ただ、知人のテノール歌手さんからメールをいただいて「最初の曲でキーを下げていたのに、どうして2曲目で変えたのか?」と指摘され、さすが音楽家だと思った。ということは言葉を気にしすぎる僕はある種の病気なのかもしれない。
 Ich grolle nicht 懸念していたA音美しく強く・・ゾクゾクした。
 総じて、これだけ充実した音楽はなかなか聴けないもの。思う存分ドイツリートを堪能した。
 コロの「詩人の恋」は基本昔のアプローチと変わりはないと思ったけれど、今回「冬の旅」と平行して体験できたことは非常に意義深い。最初は逆を想像していたけれど、「詩人の恋」の方が深刻な世界の象徴のように鳴り響いた。
 集中しすぎたのか暫くロビーのソファーから立てないくらい草臥れてしまった。
 Rさんが帰りの電車の中で「冬の旅」で感じたお話をしてくれて興味深く思ったのは、「老人に指図されなくても自分で進む道くらいは最初から分かっている。」と聞こえたとのこと。なるほどと思った。
 前後するがアンコールはシューマン「献呈」。感謝に満ちた幕切れ。
 
 Du meine Seele, du mein Herz,
 Du meine Wonn', o du mein Schmerz,
 Du meine Welt, in der ich lebe,
 Mein Himmel du, darein ich schwebe,
 O du mein Grab, in das hinab
 Ich ewig meinen Kummer Geb!

 Du bist die Ruh, du bist der Frieden,
 Du bist vom Himmel mir beschieden.
 Daß du mich liebst, macht mich mir wert,
 Dein Blick hat mich vor mir verklärt,
 Du hebst mich liebend über mich,
 Mein guter Geist, mein bress'res Ich!
 
 何にサインしてもらおうか考えて、「リエンチ」と「詩人の恋」と「グラーフィン・マリッツァ」1人2枚までなのですが、パートナーと一緒だったので3枚なのです。「冬の旅」にサインしてもらうの忘れてしまった。でもDanke!次は月曜日のサントリーホール。いよいよカールマン、メリーウィドウ、そして「ローマ語り」です。
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 全然関係ない話ですが、自治会費の集金しなければならない苦悩。将来の夢は琵琶を操る吟遊詩人と決めたのですが、逃れられない運命は地域の理事を務めなければならないこと。数年に一度やってくる当番。うんざりしながら近所のベルを順番に押す。不思議なのは必ず白いランニングシャツ姿の年配の男性がでてくること。いい人ばかりだけれど、不思議なものです。僕はそういうの一枚ももっていない。集めるのは毎月の会費と夏祭り費用500円。領収書を書くだけでフラフラした。
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