SEIJI OZAWA FESTIVALでマーラーを聴く その2

 マーラーについては少し真面目に書きたい。
 誰もが5番に期待していると理解できたのはホール全体に独特の緊張感。
 実演ではPヤルヴィ&hr響以来だけれど、2人の巨匠にある種の共通項を見出した。それは深刻な響きに感じられない現代的で洗練されたところ。それでいてけれん味がかった劇的な構成とでも表現したらいいのかな。考えすぎかもしれないけれど時にコメディに接しているようなユニークな気持ちに導かれる。それでもヤルヴィの場合はやや理性が勝っていて、ルイージでは緻密な計算がありながらライヴならではの感情むき出しの音楽的心模様が優先される。マエストロは昨年「ファルスタッフ」を松本で指揮されていてかなりの名演だったとのことですが、理想を追い求めながら、マーラーであったとしてもオペラ的な演奏家を労わる精神が存在する。だから速度が遅かろうがいきなり加速しようが演奏家は真剣に答える。有能なオケとの信頼関係は素晴らしい。比較することは嫌いだけれど5番に関してはルイージに軍配を上げたい。いずれにしてもオペラにおいて有能な成果を出しているマエストロで大曲が鑑賞できることは贅沢であり同時に安心感がある。
 ルイージのアプローチは堅実なアルプスより北の音楽にぴったりと感じられるが、もしかしたらこの人は日常のそれや性格までは知らないけれど、美しい女性を見たら片っ端から愛を語ったり、約束の時間になっても大丈夫だからと平気で遅刻するような典型的イタリア人ではなかろうかと(批判じゃなくてたぶんもの凄く真面目な人だと思うが。)なんと第1楽章を聴きながら気がつかされた。ちらりと奏者にアイコンタクトをおくり「さあタルコヴィさん、あの柔らかく美しいトランペットの音色をもう一度僕に聴かせてください。」そして知らず知らずのうちに「ここはこうだ!」と言わんばかりにルイージの世界に楽員を導く。第2楽章では極端なルバート、乱気流の飛行機の如くあまりにテンポが揺れ動くから酔いそうになる。それでも時間の経過と共に耳も慣れてきて、もしかしたら元々がそういう音楽だったのかもしれないと思えた。ユダヤ的な世界とか、あまり興味もないけれどよく心理学者の言うマーラーの幼少時の経験に関係するうんちくとも無縁に感じられ好ましい。第3楽章に関してはバボラークばかり見ていたので記憶が曖昧(笑)この楽章は個人的に困難なホルン協奏曲だと思っているのですが、超人奏者のそれは間違いなく現在世界最高のホルンを聴いているという現実と確信。これだけでも松本に来てよかった。いまだに聴覚的残像として脳に保存されている。第4楽章。前後の関係で最早どうでもいい世界というか、金管の休憩時間にしか感じられなかった。しかし厚みのある美しい弦。考えてみたらハープは吉野さんだから贅沢な体験だった。お仕舞いの数小節前からバボラーク準備万端。音楽家以前に職人としての意識の高さに感服。指揮者を無視していきなり吹き出すのではないかと可笑しな緊張感。そして終楽章、僕は聴くことに少し疲れていたけれど5番はよくできた作品。感動する仕組みになっている。ティンパニのリウッティ素晴らしい!コーダは全盛期のインバルなみに加速し大きな音で締めくくった。サイトウ・キネンの過去の演奏を全て知っているわけではないが、かなりの上位ランクに位置づけされる名演だったと思います。細かく指摘すれば好みは分かれるように思うけれど爆演に対してのささやかなアンチテーゼ?というか普段からマーラーに無頓着なので何が正しい位置づけなのかよく分からないのですが、何故ここまで大きな音や激しい速度を要求するのだろうとは思いました。
ただ聴衆の大半が激しいマーラーを求めてやまないことはスタンディングでの反応が証明していたでしょうし、確かに皆が興奮していた。それはオケのメンバーも同じ。義理や人情と無縁の喜びの表情。彼らの瞳は美しく眩しいほど輝いて見えた。孤独な努力の積み重ねの集合体が交響曲なのだと思いました。こればかりはCD等に記録できない。

 gustavさんは<音楽と聴覚との間に特殊なベールのような境目があり、それは現在と過去との記憶を繋ぐ大切な感覚。マーラーの5番から覚醒した喜び>を言葉にされていた。その話を聞きながら僕は吉田先生の「プルーストは正しい」で始まる文章を思い出した。
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 居酒屋「しずか」に移動して「素晴らしい演奏に乾杯!」 写真がおかしいけれど米ナスと馬刺し。
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 鯉の甘露煮。とにかく松本の美味しい食材オンパレード。
 
 酒屋アフターでバー「サイドカー」でウイスキーにチーズ盛り合わせ。
 深夜大雨のなかホテルに戻った。睡眠薬を飲んでもなかなか寝付けず少し困りました。
 

 翌朝ラウンジでトーストを食べていたら同じ空間にヴァイオリン奏者の安芸晶子さんがいらっしゃって、恐縮にも少しお話ができました。「ルイージさんは本当に良い指揮者ね。」と笑顔で言葉にされていた。
 街中にある鯛満の井戸。自宅での珈琲用にペットボトルに詰め込む。
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 〆は十割蕎麦。
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 16時開演のオペラ「ベアトリスとベネディクト」を観たい気持ちもありましたが、さすがに疲労から帰宅。
 急遽決まった1泊2日松本の旅。終了。