ウィーン その2

 滞在中は山路さんの取材も兼ねていたのですが、それ以外のお話をしばらく続けたいと思います。

 2日目。
 お昼頃予約していたチケットを引き取りにアンデアウィーン劇場まで行った。
 そのついでにマルクトを散策していたら美味しそうなシーフードを発見。
 店主らしきオヤジに「料理してほしい」と交渉したら、日本でいう八角カサゴ種トクビレ)のオバケみたいな魚を持ち出してきて「これが一番美味いから食べろ」とイタリア語とドイツ語と英語がグチャグチャになった奇怪な言語で営業してきた。「幾ら?」と質問したら「42€だ」・・「ふざけんな!」 日本人を馬鹿にするな。
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ツレの希望はシュニッツェルだったので、注文するならプラス淡白な魚かなと思い右奥の舌平目を指さし「ソールが食べたい」とお願いした。シュニッツェルはチキンとポークと子牛からチョイスできる仕組みになっていて当然だけれど子牛をオーダー。ということで以下のお写真。
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 舌平目はオヤジが得意気にサーブしてくれたのでこんな形状になりましたが、食べながら思ったのは「エンガワ残してもらえばよかったかな」 
 しかしこのお店とてもボーノだったので再訪したいと考えた。でもどうしても時間が捻出できなかった。
 その後カールスプラッツから地下鉄でシェーンブルンに向かった。初ウィーンのツレを連れていかないわけにもいかない。しかしこの行動が滞在中最も過酷な精神的ダメージを呼び寄せてしまった。とにかく疲れた。
 宮殿は40部屋もあるし、たまたま中国の団体さんに挟まれたり、ガイドのイヤホンから聞こえるナレーションが下手すぎやら(どう考えても素人としか思えない)様々な要素が重なりフラフラになってしまいました。
 しばらくベンチに腰掛け休んで、せっかくここまで来たのだからと、まだ行ったことのない丘の上まで歩いてみた。何度も挫折しそうになったけれど頑張った。王女様もこの風景を見たのかしらん。ツレは丘の向こうまで行ってしまったが、またしてもナルコレプシー。もう限界・・
 立ち入り禁止区域らしき芝生の中に勝手に入り座り込んだ。
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 昨日の雨が原因なのか、若干湿度を含んだ大地が心地いい。
 薄れゆく意識の中で・・「エリーザベト!」 
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 それからホテルに戻り(実はこのあたりの記憶が曖昧)18時30分にタイマーを合わせベッドに倒れこんだ。
 19時過ぎの楽友協会。今日は2階の正面3列目。ネット予約したときは1階のバルコンだったけれど、どうしてこの席になったのか不思議。でも舞台上楽員の椅子の数がマーラーなみに沢山あるからかえって良かったのかもしれません。 
 19時30分開演 Tonkünstler-Orchester Niederösterreich の演奏会。
 この団体の名前は耳にしているし公演のチラシを何度も見た記憶があるが実演で一度も聴いたことがなかった。佐渡さんが主席だったかになられたとかで近々東京でも演奏会があるらしいが全然興味がなくて、今回の旅の中ではオマケみたいな気分でチケットを予約した。
 どうでもいいが佐渡さんの演奏は一度だけ聴いたことがあって、もう10年以上昔だけれど有楽町のホールCで上演した亜門さん演出のバーンスタイン「キャンディード」 それに知人が出演していて内緒で開演前の舞台を見学させていただいた。今でも忘れない。序曲だけがとてつもなく素晴らしかった。
 国立ではこの日「仮面舞踏会」で、どちらかというとオペラの方が面白いかなと考えた時期もありましたが、観光客相手に徹したウィーンの歌劇場特有の手抜き工事を恐れ、若き女性指揮者ポスカなら本気の演奏をしてくれるだろうと思ったのでした。
 実はその想像が当たった。
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 Xavier de Maistre ( Harfe )
 Kristiina Poska, ( Dirigent )                           
                            
 Leos Janácek
 Suite aus der Oper «Príhody lisky Bystrousky»                                                              
 Einojuhani Rautavaara
 Konzert für Harfe und Orchester                                                                   
 - Pause -
 Robert Schumann
 Symphonie Nr. 3 Es-Dur op. 97 «Rheinische»

 1曲目のヤナーチェクは、いわゆる「利口な女狐の物語」からということですが、とにかく元気のあるマエストロで、野暮な表現ですが全盛期の小澤さんが細かな箇所まで全部指揮しちゃうようなあの感じ。躊躇せずに大きな音も要求するもんだから、前列にいた睡眠中のおじさんが飛び上がって目を覚ました。疲労感いっぱいの僕だって完全に覚醒した。不思議なのはどんな大掛かりなシーンでも細かな全ての音が聞こえてくるということ。
 このあたりはホールのマジックなのかPoska嬢の技なのか判断できないけれど、もしかしたらこの指揮者さん凄い人かもしれない。
 ただこの時点で若干気になったのは西欧芸術ならではの潤いが希薄に感じられたことで、それは後々別の思いに集約されるのだけれど、華麗な容姿と裏腹に目を閉じてしまえば男性原理の塊みたいな音楽だけがやってくる。もしかしたら同性愛?以前似たような気持ちにさせられたのはピアノのアヴデーエワのリストだったかな。
 
 
 次はハープの名手Xavier de Maistreが演奏した現代フィンランドの作曲家ラウタヴァーラの聴いたこともない協奏曲。指揮台の前に3台のハープがセットされたから、まさか一人で3台演奏するのかな?そんなはずはなく、他の2台はオケの奏者が担当されていた。Xavierは昨年の秋に鎌倉でリサイタルしていて僕は仕事の関係で聴けませんでしたが、ツレはわざわざ仕事をキャンセルして出かけていて「ええ男」なんだそうです。
 ラウタヴァーラは一度だけでは良い作品なのかなんだか判断ができませんでしたが、僕はわりと面白く聴けた。忘れそうなので書きますが、トンキュンストラーは侮れない。美しい弦。少なからず管楽器は名人ばかり。
 ハープのアンコール。曲名が思い出せなくてイライラしているのですが、シュトルツのようなウィーン的音楽を吃驚するほどの超絶技巧で披露。普段はおとなしいであろう地味オケのサポーターが大騒ぎ。一部の人はスタンディングでの拍手をおくっていた。終演後口ずさんでいるご婦人を見かけた。もう楽しくてしょうがない雰囲気。
 
 休憩時間に喉が渇いてしまいソーダバッサーをがぶ飲み。

 そしてシューマン「ライン」 これが決定的なケミストリーだった。
 本来であれば人との相性や信頼関係などによって築かれるプラスαの価値とでも言うのでしょうが、僕にとってはもう少し大きな感覚で、取り巻く社会と自分との距離を明確に指摘されたみたいで動揺(もはや狼狽に近い)してしまったのです。ひょっとすると絶望。
 これを聴いた別の人が的確に音楽だけの感想を書くなら「若くてとっても元気な演奏」だろうし、以前の僕なら似たような思いになったことでしょうが、表現が難しいけれど自分がどんなに頑張って走ったとしてもポスカの速度には絶対に追いつけないと気がついてしまったのです。単純な話、時代は確実に変化し情報が氾濫していて、更に身近になった音楽はいつまでも万人のものであると信じたいけれど、もしかしたら僕には聴く資格がなくなりかけているのではなかろうかという恐怖感だった。昔僕は10代の時とか20代の時は死なないと思っていた。自分だけは年をとらないと思っていた。演奏後しばらくの間は拍手もしないで椅子からも立てないで下ばかりむいていた。
 20分程してからホテルに向かって歩みを進めた。ツレは「ハープはやっぱりええ男だった。ソーセージ食べに行こうよ!」と明るい。「そうだね。美味しいホットドック作ってもらおうね。」と返事しつつ、彼女から見えないように涙を拭いていた。
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 オペラハウスまで帰ってきたら「仮面舞踏会」のライヴ中継を大きなスクリーンに映し出していた。
 レナートのアリア大詰めである。ドミトリーは立派な歌声だったけれど、随分痩せたと思った。
 脳腫瘍の手術をされたばかりでそれが原因なのかもしれない。声も線が細くなったように聞こえたが、ウィーンのお客様はブラボーの大騒ぎ。オスカルは美声だけれど、指揮者のテンポに追いつくのに精一杯で、思わず「頑張れ!」 終幕リッカルドは(当初予定されていたヴァルカスの代役テナー)かなりピンチの歌唱。あの作品刺されてからなかなか死ぬまで長いから大変そう。でも死ぬのだからピンチでもそれらしく見える。ともいえる。
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 終演だ!どさくさにまぎれてシュターツオーパーに潜入。会場は大騒ぎだから素晴らしい舞台だったのかな。
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 ホテルに戻り休息。  シャワーを浴び、睡眠薬と安定剤を飲み就寝。 
 頭の中でラインの終楽章が鳴っていた。            

  http://oe1.orf.at/programm/434486  詳細は不明ですが、この「仮面舞踏会」orfのラジオで数日たぶんあと2~3日聴くことができるみたいです。少しだけ聴いてみましたが・・楽友協会のチケット購入して正解だったと思いました。