ウィーン国立歌劇場「パルジファル」4月16日

 帰国後身体の調子が思わしくないのですが、記憶が確かなうちにレポートを残しておかなければ。
 4/16(日)ウィーン国立歌劇場パルジファル」の新演出最終日。
 その昔NHKのFMでバイロイト音楽祭を聴いていたとき、同作品だけがイースターに合わせて放送されていて、当時は意味も考えずにいたけれど、お祭りのような音楽の都に来てみればそれとなく意義深く感じられる。 
 前日メデア鑑賞後部屋のラジオをつけると「聖金曜日の音楽」が流れていて直ぐにウィーン初日音源と気がついた。
 でもしっくりこないのはグルネマンツがクワンチュル・ユンじゃないみたい・・そしたら終了後ルネ・パペとアナウンスされ、今回変更になっているのかなと前向きな期待を抱いてしまった。結果としては初日だけだったみたい。
 ビシュコフの指揮はのろのろした雰囲気で、世間が素晴らしいと評価しているクナッパーツブッシュのレコードと長過ぎる休止符を刻む芸術を理解しないティーレマンを足して3で割ったような音楽。この人のワーグナーは好みじゃないかもと後ろ向きな気持ちになり睡眠薬を飲んだ。
 ミサのあとホテルに戻り仮眠。
 ちょいとお洒落して16時30分開演のシュターツオーパー。
 今回一番お金をかけたチケットは初めての平土間。横通路後1列目で152€?で、あの時は117円だから18,000円程度かと思います。貧乏くさい発想だけれど、N○SのS席で3回オペラ鑑賞するならば同じような旅行がもう一度できてお釣りがくる計算。
 周囲はブルジョワの空気が漂っていて明らかに上の住人と異なる。
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ということで以下が当日のキャスト。素晴らしい!バイロイトクラスばかりである。
 Dirigent Semyon Bychkov
 Regie und Bühne Alvis Hermanis
 Kostüme Kristine Jurjane
 Licht Gleb Filshtinsky
 Video Ineta Sipunova
 
 Amfortas Gerald Finley
 Gurnemanz Kwangchul Youn
 Parsifal Christopher Ventris
 Klingsor Jochen Schmeckenbecher
 Kundry Nina Stemme
 Titurel
Jongmin Park                                                            
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 記念に指揮台を背にパチリ。
 一番驚いたこと・・音が良い!(つまり渋谷や上野と違う。)
 
 肝心の演出は、ウィーン近郊オットー・ヴァーグナー病院(精神病院)の巨大な敷地内にあるシュタインホーフ教会の設定になっていた。実は今回時間が作れたら見学したいと考えていた建築だったから、予め調べておけばよかったなと若干後悔した。なんでかというと、以前記事にしたことがるマルターラー演出のお芝居「未来を予防する」がそこで行われ興味があったのです。環境の良い施設に礼拝堂、日本にこういう病院あるのかな?ちなみにナチ時代に大勢の人たちが殺された悲しい歴史があります。

 日本独文学会のHP参考まで。
 旅行社のHPからオットー・ワーグナー設計ユーゲントシュティル様式のシュタインホーフ教会。
 聖水入れは水滴が落ちるように設計されているとの記述、つまり聖杯かな。
 
 オットー・ヴァーグナー病院(Otto Wagner Spital mit Pflegezentrum)のHP。
 
 ついでにwiki

 お話はその病院の精神科医師がグルネマンツという設定で、威厳をもって(偉そうに)仕事をしていて、棚には本とホルマリン容器に入った胎児や脳が並び、デスクの横に蓄音機が置かれている。
 本は知識、蓄音機は権力の象徴、そしてたぶんグルネマンツはフロイト
 フロイトだとしたらパペよりもユンが相応しく感じられたのは容姿含め雰囲気が似ているから。
 クンドリーは最も厄介な入院患者のようで、時に檻に監禁され気の毒に見える。シュテンメは素晴らしいけれど、歌声演技が端正だからあんまり狂人に感じられなかった。
 アンフォルタスは頭部左右から血の滲んだ包帯をしているので、剣で頭を突きぬかれたと1幕の段階で理解できましたが、普通そんなことされたらいくら復活祭の神聖劇であったとしても生きているはずはない(笑)

 ※このまま説明を続けていたらどえらい長文になるので以下簡略化いたします。
 クリングゾルは同病院で働く外科医の扱いで、邪悪なそれでなくいい人に見える。同じように本と蓄音機。
 つまり演出意図は心理学と外科のどちらに優位性があるかということ。
 脳に槍が貫通していて、パルジファルがそいつを引き抜き(幕ごと肥大化する脳が聖杯そのもの)クリングゾルが台車に載った脳を片付けるところで2幕が終了する。そいつがやたら間抜けに感じられた。コンヴィチュニー演出でトリスタンがソファーを引きずりながら出してきたことを思い出した。
 3幕はやはりオットー・ヴァーグナー設計カールスプラッツ駅のデザインも出現。
 原作では修行に出ていたパルジファルだけれど、最初から病院内部だけの設定なので、グルネマンツが「お前を知っている」と言葉にしても、<さっき会ったばかりじゃないか>と突込みを入れたくなった。ただ鎧兜をまとって現れたので贔屓目に見れば小旅行程度の外出だったのか。
 ラストシーンで合唱団員がブリュンヒルデみたいなヘルメスの兜姿で登場。恐らく偉大な哲学聖職者を意識したものでしょうが、神や自然界の秩序を破り善と悪の異なる二面性を齎す。彼らは知性第一主義で狡猾を持ち合わせる。弱者に歩みよらず無意識のうちに人を傷つけ死出の案内役を受諾する。つまり救いは影を潜め変革への期待は封印された。
<ああ、もしかしたらこれが答えかな?>
 患者その1にしか見えないアンフォルタスは死ぬ。
 グルネマンツは最後まで偉そうにしていた。


 もうグチャグチャな文章で嫌になりますが、今の僕には訂正修正する気力はない。
 結論・・・感動した(笑)
 たぶんオケは超本気モードで歌手陣も素晴らしかった。ヴェントリス頑張った。シュテンメは響きのある艶やかな声質。期待のアンフォルタスはあんまり好きじゃないタイプだった。
 数日前からyoutubeに全曲出ているのですが、僕のときとは別日の収録で、4/16はもっと良い演奏だったのになと感じました。ビシュコフは日によって随分解釈が異なるように思えた。
 ヘルマニスは数年前ザルツで「軍人たち」を演出していて(まだ映像は観ていない)兵士の日常の不条理を表現したと何かで読みました。ちょっと興味あります。
 それから蛇足ですが、1幕終了時にだらだらとした拍手が起こった。直ぐに消えたけれど。
 どこかのボックス席から「ブラボー!」が1人。ちょいと品位に欠けると感じた。
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シュテンメこそ現在最高のワーグナーソプラノ。
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「これから飲みに行くんだ!」とヴェントリス。