ミュンヘン その3 フローレス出演の「ルチア」他

 乾燥が酷く、思い描いていたハイネの五月とは異なった。
 しかもアレルギー悪化。睡眠薬を飲んでも熟睡できず、烙印を押され強制収容所監禁の悪夢に魘された。

 モーニング珈琲前に駅と反対側方面を散歩していたらBRの大きな建物があった。「あっ!バイエルン放送協会だ。」ミュンヘンにいたのだから当たり前ですが、学生時代FMばかり聴いていた音楽好きにとっては聖地みたいなもんで、バイロイトザルツブルク音楽祭NHKで放送されたとき、番組最後にアナウンサーや評論家先生が「バイエルン放送協会提供のテープでお届けいたしまた。」と言葉にされていた。
 それがこことは感慨深くジーンとしていた。(早朝BRの看板前でジーンとしている東洋人。馬鹿である。
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 午前から昼過ぎにかけて美術館へ。この日の彫刻陳列館とレンバッハ美術館はホテルから近いので歩いて行きました。

 

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彫刻の時間。デッサンをしている人がいた。本物と対峙できる環境。

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 「行為の正しさの根拠は神にある」「人の本性は善である」のアウグスティヌス。たしか昔のバイエルン「指環」でローゲがアウグスティヌスの胸像に目隠しをするシーンがあった。違う人だったかな?

  

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レンバッハの自画像。見せかけの知識教養だけではなく品位と人格、時には霊的内面まで描き出すことに成功した肖像画家。手の大きさは「自信と確信のあらわれ」と勝手に解釈している。
 ジーン。
 
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 この街に来るたびに必ず鑑賞する自画像が2つある。レンバッハとデューラー

 足腰が痛くなりバスでマリエン広場に向う。途中で警官から荷物チェックを求められた。
 VIPでも来るのか市役所前は人だらけ。
  誰だかわからなかったけれど、サッカー関係者みたい。
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 10分後(驚)危険集会に変貌。
 パニック障害が手招きしているような気がして広場から逃げ出した。
 

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一度ホテルに戻り昼寝してからオペラハウス。
 今宵はドニゼッティ歌劇「ルチア」
 Lord Enrico Ashton Mariusz Kwiecień               
 Lucia Ashton Venera Gimadieva               
 Sir Edgardo di Ravenswood Juan Diego Flórez               
 Lord Arturo Bucklaw Galeano Salas               
 Raimondo Bidebent Mika Kares
 Alisa Alyona Abramowa 
 Normanno Sergiu Saplacan 

 Musikalische Leitung Antonino Fogliani
 Inszenierung Barbara Wysocka

 趣味的には一番どうでもいい演目でしたが、エドガルドをフローレスって凄いことで、今考えるとよくもまあチケット取れたもんである。
 湿度を欲していたタイミングで雨が降りだし安心を獲得。
 曇り空よ真面目にやれ!
 劇場前に誰が乗ってきたのかリムジンが2台。それはそれは品のないピンクでございました。

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 なんと前から4列目。

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 真ん中辺りが理想なのでしょうが、一度は経験が必要と思ったのは音響問題はどうでもいいというか、寧ろ臨場感があって面白かった。音響といえばバイエルンの特徴として気がついていたのは、センター近くで聴いているとき、なにかのタイミングで突然ファーストヴァイオリンが左壁面から響いてくることがあるということ。昔はそれが奇妙で無駄に思っていたけれど、年齢を重ねた結果愛おしく感じられてきたのはどうしてだろう。
 ルチアの席はライト側だったので、少し違っていて全体的に高音が左の上のほうからやってきて、右下からチェロの低音がズシリと訪れる。歌手にしても同じ。近くでアリアだったときのフローレス!鼓膜が震える直接音はそれだけで忘れがたい。

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  指揮のアントニーノ・フォリアーニが素晴らしかった。この人はベルカントオペラを得意にしている人。それなりに録音も多いけれど実演じゃなければ良さもなにもわからない。一番感心したのは歌手個々のその場のコンディションを察知し対処するところ。対策あっての対応と対処も瞬時の判断となれば経験の積み重ねだけが頼りとなる。音楽に神経質過ぎる聴き方はろくなものじゃありませんが、フォリアーニだったとき「ミのフラット」をどこまで引っぱるのかがわかる。しかも非常に繊細な音楽が生き生きと再現される。

 そういえば、最近山路さんご親族とメールのやり取りしていて「出来ることを相談しよう」ですが、30数年前にバイエルンとの専属契約はご苦労も多かっただろうと想像した。

 演出のバルバラ・ヴィソッカは美しい女性。
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  動画はショパンを題材にした舞台。興味深い。
 検索かけると女優としての動画ばかり出てきます。
 
 ↓は2015年ペトレンコ指揮プレミエ時のもの。ディアナ・ダムラウとパヴォル・ブレスリクが出演していた。
 シュレーカー同様に動画はなるべく見ないようにして実演にのぞみました。
 全体的に役者に無理をさせない舞台に思われ、もう少しオペラ歌手の演技を信頼肯定し、ぶっ壊れたドニゼッティを期待していたので些か肩透かし。それでも飽きずに鑑賞できたのは、17世紀スコットランドでの政略結婚が生む悲劇が身近な世界に置き換えられたから。装置と人の配置等、無駄のない比較的シンプルな構成で視覚的にもバランスが良く疲れない。なんとなくワルリコフスキよりヴィソッカの未来に期待したい。
 Edgardoが車を暴走させるシーン。それが次の幕緞帳が上がると壁に突っ込んだ大事故だったから「ジェームス・ディーンだ」と気がついた。だとしたら顔つきが似た印象のブレスリクを想定して作りあげたのかもしれません。(ジーンズとTシャツでハンバーガーが似合うかも)実は最近ブレスリクに注目している。
 ヴェネラ・ギマディエヴァは力演でしたが残念ながらフローレスに全部持っていかれた。ただしダムラウよりは彼女に相応しい舞台に思われた。何故ならダムラウって「私はプリマドンナざます」的オーラ出っ放しで、生まれた時代間違えた典型的歌手に見えるから。バルトリもそうだな。ギマディエヴァの情熱はエドガルドにそそがれる。歌唱力はまだまだ(あんなもの?)素直な表現に好感が持てた。
 エンリーコ素晴らしかった。メトのドン・ジョバンニの人だったかな。

 演出の力は完全にエドガルドが主人公。しかもフローレスの命を削るような驚愕の歌唱に聴衆は熱狂した。アホみたいに騒いでいる。誰もが満足。イタオペは盛り上がる。
 結論「ルチア」にあらず歌劇「エドガルド」だった。
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 PCがいよいよおかしい。アップした写真が勝手に消える。
 何故だろう。