銀の薔薇

 一定のリズムを刻む夜行列車
 レールの繋ぎ目から
 虚無に削られた銀粉を撒き散らし
 大地は毒に犯されてゆく
 武装した小石は
 死者となり
 月影に照らされ
 哀傷の憑依する偶像を求める
 苦悩を感受し
 私は「銀の薔薇」に
 祈りを捧げる
 
 かつてクライバーの「薔薇の騎士」を観た(観た、聴いた?やはり観ていた)時の、ちょっとしたエピソード。
 初日で皇太子ご夫妻もお越しになっていました。
 隣席の友人が山本五十六みたいな双眼鏡で舞台を(指揮者を)見つめていた。
 記事は音楽的な内容ではありませんが、私は三重唱あたりから最終場面まで涙が止まらなくり、近辺の人に気がつれないようにしていたのだけれど、後で気がついたら皆が泣いていた。
 一幕後の休憩時間だったと思うけれど、指揮台を覗きに行ったら、楽譜の上に銀の薔薇が置かれていることに気がついて、鳥肌が立つような奇妙な感動を味わった。
  「なんて素敵なの」と話し合う女性、写真撮影のおばさん、全く無知らしいおじさん、様々な人たち。
 私は、手を伸ばせば届きそうなクライバーの薔薇を見つめ
 「もし盗み出す事ができるのなら、自室の奥で家族にも気がつかれないような暗所に隠し続け、生涯にわたり絶対に誰にも見せないで生活するだろう。そして銀製だから時々磨かなければならない。」等と訳のわからない想像を巡らせた。
 あの薔薇は今何処にあるのだろう。
 ご遺族がお持ちなのでしょうか。
 私は今でもあの輝きが忘れられない。
 
 詩は「薔薇の騎士」とは関係ありません。
 半分は夢で見たお話。