9・1(震災の写真)

 鎌倉駅の脇に綺麗な地下道があり、内部のウインドウには小学生の絵画や書道等が飾られ、それが「大仏」だったり「平和」だったりと通るたびに横目で見ながら、何処かの公園にありそうな裸の女性が子供と手をつないで空を見つめるように歩むブロンズ像、例えばテーマが「愛と未来」だったりと、トンネルの子供の絵画とは関係ないけれど、そういう臭いと同じような、行政が関係した爽やかで美しき空間で、珍しく私は足を止めた。
 それは関東大震災時鎌倉の写真である。
 八幡宮の舞殿や長谷寺が倒壊し、いつもバスや自転車で通過する由比ガ浜の商店街の崩壊したありさま等、これだけ甚大な被害があったのかと驚かされた。
 写真を見ながら、私は高校時代に読んだ小説を思い出した。
 福永武彦の小説「風土」、以来書斎のどこかにあるけれど、この話は前半が大正12年震災前の青春の情景、二部が大人に成長した彼らが過ごす大戦直前の穏やかな生活で、つまり大正から昭和に起こった二つの悲惨な事件の直前に未来を予見できずに平和に過ごしている人々の交流が印象派の絵画のような柔らかいタッチで表現されている。
 主人公は画家で、この人の小説はどれもやたら画家で、必ず影のある女性がいて男の弱々しい一面が逆に魅力的。
 好きな作品かと尋ねられると笑って誤魔化したくなるのですが、平和すぎてこれでいいのだろうかという位の平和。
 それとなく現在と照らし合わせ、未来の事件に備え注意をするにこしたことはない。
 今日は9月1日。
 心の中に震災を思いながら出かけることにしたい。