丸谷才一・挨拶の本

 丸谷才一著「あいさつは一仕事」を読んだ。
 丸谷先生の挨拶シリーズは今回で3冊目だと思うけれど、毎回様々な式典等のご本人のスピーチが盛り込まれ、さしずめ言葉の見本市のよう。
 式典は列席者の貴重な時間の集合体で一期一会、挨拶はその質を左右する大切な役回り、この本では先生の多少のゴシップ的ユーモアも交えながら知的な会話が繰り広げられ大変に勉強になる。
 式典という表現に限定したのは、最近は丸谷先生もご高齢で弔辞が随分と増えてきたからで、勿論それ以外にも披露宴、ねぎらう会、試写会挨拶と色々ありますが、井上ひさし先生お別れの会はつい最近の出来事なので、実際に現場で聞いているような気持ちになってしまった。
 挨拶をされた場所は都内のホテルが多いのだが仕事上で馴染みの会場もあり、言葉の端々でスタッフが乾杯酒を先生に届けるのはこのタイミングだな、なんて2ミリ位の行間からホテルマンの動きが感じられて、何故か自分が司会をしているみたいでその度に緊張する。
 登場人物は文学者だけではなく幾つかの分野に亘るが、所謂VIPばかり、丸谷先生も多少は下調べしているのでしょうが、どの分野においてもなんと知識が深いことか、しかも笑いがあり涙があるのだから、その度に私は驚愕する。
 文化勲章から一年後あるレセプションでの吉田秀和先生に向けられたスピーチが面白い。
 先生の相撲好きに触れられ
 「吉田さんは・・相撲があれだけ好きだったのに・・・協会の八百長に対する対応がおかしいと怪しんで、見物をやめてしまった。・・・・きれいに縁を切っていてよかった。偉い人はこのくらいツイているものなのであります。」
 と言葉を結ぶ。
 多少鼻につくが、大御所だからね、この人にしか言えないこと。
 私は仕事の関係で、司会や挨拶の手引本を沢山立ち読みをしたが、これはある程度真実を伝えても問題ないと思うのだけれど、所謂「間違いだらけの内容が実に多い」・・と思う。
 騙されてはいけない。