「町の音・町の人 」田村隆一
「僕のピクニック」(1988)と「町の音・町の人」(1989)両方とも帯つきの初版本で525円なのだから、相場は解りませんが比較的安い買い物だったという気がします。
田村隆一さんは先のブログで紹介した妙本寺にお墓があり、それは以前散歩中に偶然見つけたのだけれど、私は墓地の散策が好きでして携帯プレーヤーで武満を聴きながら、あちらに行ったり此方に戻ったりと殆ど誰ともすれ違うこともなく、仮にお墓参りの人と出くわしても軽く会釈が生まれるようなただならぬ、それでいて極めて脱力した共同意識が発生するのだから悪くはないのです。
もう一つ田村さんは、現在私が時々お仕事を頂いているホテルの常連で、でも常連といっても近くに出版社があるのですから、ご本人の意思とは関係なく缶詰にされ急いでペンをはしらせていたのでしょうが、深夜ロビーで泥酔した詩人を客室までスタッフがお連れしたのは滞在中毎日だったようです。
とりあえず「町の音・町の人」を読みました。
対談エッセイで気軽に読める内容なのですが、対談相手が駄菓子屋の主人だったり床屋のおやじだったりと全てが庶民の目線で語られるのがいい。
彼らは職人であり町の達人ばかり。
『下町には川が流れている。大川の水は生きていたから、町だって生きていた。町が死んでしまったら、どんな恋も、どんな涙も、生まれはしない。』
『人が町をつくり、町が人をつくる。
その有機的関係が、せめて三代つづくと、人にも町にも、光と影がうまれてきて、文化が息づいてくる。
死者のいない新しい造成地の町は、町ではない。』
骨折して病院に運ばれ、完治退院後、ベッドの下からウイスキーの空き瓶が発見された伝説。
モルトと煙草の匂いの詩人は、「長生きすれば誰でも詩人になれる」という。
「自己陶酔は青年の特権」ともいう。
かっこいいな!と思った。