12・3ヤルヴィ「シューマン4番と1番」今年のベスト?

 パーヴォ・ヤルヴィ指揮ドイツカンマーオーケストラ演奏会に行きました。
 12月3日(金)タケミツメモリアルにて19時開演。P席16番で鑑賞。
 今回はシューマンばかりで、最初が「序曲、スケルツォとフィナーレ」次が「交響曲第4番」、休憩時間を挟んで「交響曲1番・春」、というプログラム。因みにアンコールは遊び心たっぷりのブラームスハンガリー舞曲6番」
 どちらかというと翌日の2番と3番が聴きたかったけれど(と申しますか本当は両日聴きたかった。)土曜日は仕事を優先させ、生きる為には残念ながら仕方が無い。
 しかしなんとまあ想像以上の凄い演奏で、心の中を感動の嵐が吹き抜けたのですから、行くのがわりと面倒な初台まで暗い中出掛けていったのは結果大正解でした。
 タケミツメモリアルはP席が一列しかなく以前から一度は座ってみたくて、ですから突然訪れたチャンスが今回で、しかもセンターだからヤルヴィを見るには最も具合のいい場所、それで座ってみたら手すりが邪魔だけれど本当に指揮者が近くに感じられて、あの人は姿勢が良くてわりと上を見ながらタクトを振る癖があるから時々視線が合ってしまうくらい。
 こういう時に小生はけっして視線を逸らさない。日常では節目がちの人生だけれど、ヤルヴィと視線が合うとは向こうだって私を見ているのですから、劇場ではそれくらい本気にシューマンを吸収したいし、昨日までオーディオに気を取られていたなんて恥ずかしながら私は愚かだった。
 吉田先生の「機械は良いにこしたことはないけれど・・」の意味が理解できたみたい。
 関係ないけれど、ヴェルナー・ヘルツォーク監督の「フィッツカラルド」、主人公が満席のオペラ劇場内で「カルーソーが私を見ている!」あの狂ったような強烈な台詞を何故か急に思い出した。
 しかしP席だと音は逆さまですし、後ろの方の管楽器が真下に位置するから全ての楽器が見えるわけにはいかないなど、面白いけれどデメリットは多い。いずれにしても安い席ですから贅沢はいえません。
 オケはカンマーと表現されているように弦の厚みが薄く、シューマンはホルン等の管が活躍する曲、開演前はその辺りのバランスが大丈夫かな?と心配だったのですが実際に聴いてみたらバランスの悪さどころか、シューマンはこういう音楽なのだと整理された音の組み合わせに逆に納得してしまった。
 そういえば去年だったか監督の名前を忘れましたが、クララ・シューマンの映画を観て、パスカル・グレゴリー演じる精神の病んだロベルトが指揮をしていたオケが丁度このくらいの大きさだったなと気がついて、ついこの前のマリナーN響では重厚でブルジョアなイメージの音作り、これは否定ではなくカラヤンだってバーンスタインだってバレンボイムだって、あのシノポリでさえも、表現は異なれど似たような音の厚みで苦労してきたみたいで、それなのにヤルヴィが全く異なる美学なのは、それぞれの楽器が有機的にまるで室内楽のように主体的な躍動感を与えているようにクリアーに聴こえてくるから。
 アーノンクールの方向性に似ているようにも感じられますけれど、あそこまで捻くれたコメディアンみたいなややこしさは無く、どちらかというと見た目は生真面目な公務員みたいな印象で、例えば日本の郵便局の配達係とか警察官の制服を着させたい欲求を覚えるのは私だけかもしれませんが、仮に外科医だったなら患者が人生の全てを委ねることができる「信頼感」がある。当たり前だけれどアーノンクールみたいな医者だったら私は逃げ出すだろう。
 信頼は緻密な学習の成せる業、知性教養とジョークが共有する安心感。
 それでもホグウッドみたいに音楽学者ではない、ヤルヴィは音楽家
 スタンディングでの喝采
 この演奏会、もしかしたら今年のベストかもしれない。